そんなある日、シングルファーザーを1つ目の波が襲ったのです。午前中にインターホンが鳴り、玄関を開けるとサンダル履きのハルさんが立っていました。

ハルさんは定時制の生徒で、私より年上のおばちゃん。旦那さんが隣町の漁協の組合長だったか?

「ほい! 先生! 初ガツオだよ」

カツオ1本私の手の中に残し、颯爽と去って行った。居間で新聞を読んでいた父に、「カツオもらった!」とピチピチの1本を精一杯の笑顔で見せて流しに置いたのですが、父の目は“お前、それをさばけるのか?”と言っていました。

私だってカツオを1本、手に持つことさえ初めてだったのですが、父に不安は見せられませんし少なくともアジはさばいたことがある私が、腹をくくってやるしかないのです!

私は、いかにも普段からもやっている風を装い、“とにかく3枚におろして更に背と腹に割ればいいのだろう”と包丁を入れました。今のようにネットで調べられる時代ではなく、かなり格闘しました。でも、どうにか食卓に上げることができたのです。

まさかこの歳で高校教師の息子がさばいた初ガツオの刺身を味わえるとは、父も思っていなかったでしょう。私にとって、内心ドキドキの「はじめてのおつかい」ならぬ「はじめてのカツオさばき」でした。