【前回の記事を読む】定時制高校の教師が疲労困憊!妻不在の生活に押し寄せた「3つの波」とは?

第1章 おつかいとは?

4 娘の偽札事件

娘(息子の5歳年下)が幼児の時のエピソードです。

当時私は、自分の晩酌用のビールを近所の酒屋さんに自転車で買いに行っていました。私の両親と同世代ぐらいのご夫婦が営む、小さな個人商店で、子どもが生まれる前から通っていた馴染みのお店でした。休日、その酒屋さんにビールを買いに行くのに、娘をよく自転車の後ろに乗せて行きました。

田圃の中を、ゆっくり走っても10分ほどの距離。自転車の前カゴにはビールの空き瓶。これが、帰りはビールが入った瓶に……店先に着くと、先ずは娘を自転車から降ろします。私が前カゴの空き瓶を降ろす間に、娘はサッサとガラスの入った木戸をガラガラと開けて店に入り、「こんにちは~」と奥に声を掛けるのです。

私が空き瓶を入れた布袋を抱えて、お店のカウンターに着く頃には、ご夫婦が顔をそろえているのです。私が1人で行った時は、たまたま店番をしていたどちらかお一方の接客ですが、娘の「こんにちは~」が響いた時には、たとえおかみさんが奥の台所に立っていても、旦那さんが、「お~い!」と奥に声を掛けてお2人がそろうのです。逆も同じで、おかみさんが声を掛けて、旦那さんがイソイソと現れる場合もありました。つまり、ご夫婦にとって娘は目を細めて迎える「小さなお客さん」だったのです。

買うのは前カゴに載る分だけのビールだけなのですが、時には、娘にとびきりのオマケを用意していてくれることも……。

ある日のこと、ビールの代金を払うために財布からお札を出そうとする私の下から、娘の小さな手が、「はい! お金!」とおかみさんに差し出されたのです。手に握られていたのは、ピンク色のワンコ銀行のお札。かわいい犬の肖像画が印刷してあり「壱兆円」の漢字とともに1の横にゼロが12個、圧倒的な存在感で並んでいるおもちゃのお札です。

“こんなものを握って付いてきていたのか……”とびっくりしました。

さて、差し出されたおもちゃのお札を、おかみさんは背をかがめて受け取り、「わ~ すごいね~ 壱兆円札か!」と表裏をひっくり返してしっかりと眺めた後に、何とおっしゃったと思いますか? これが正に「神対応」なのです。

おかみさんは、本当に申し訳なさそうな表情で……「ごめんね~ こんなすごい金額のお札では、おばちゃんのお店には、おつりがないのよ~」