「で、きよぴーさ。病気の方の切腹は、どうやったんよ? 痛かったん?」

「全然痛ないで。意識ないしな。全身麻酔打つから。眠ってる間に終わってるって感じかな」

僕はマコトに「そりゃ、大手術やのに麻酔打つやろ」と言った。

「せやな。麻酔打たへんかったら、ほんまの切腹なるもんな」

「マコトくん、私に、リアル切腹させんといてくれる?」とオカンが笑って言ったら、マコトが「あはは。ごめんごめん」と返した。

「まだ、お腹の周りが、ピリピリして、ちょっと痛いんやけどな。でも、これは日にち薬でだんだんようなるて、主治医の先生言ってたから」

「とりあえず、きよぴーの手術が成功して安心したわ。早く元気になるんやで」

オカンが「ありがとうな」と言って徐(おもむ)ろにベッドの上の雑誌に手を伸ばした。「そうそう。オモロイもん見つけてん」とにやにやした顔つきで、雑誌の記事をマコトと僕に見せてきた。

「MANZAI甲子園?」雑誌の記事を見た僕は声が裏返った。マコトは記事を真剣に読み込んでいる。「そうそう、高校生限定の漫才大会。結構大きい大会みたいやで! テレビ放映もされるみたいやし。あんたら二人で出場してみたら?」と爛爛とした瞳を装備してオカンは言った。

僕は「なんでやねん」と呆れて言い、マコトは「賞金50万円なんや」と笑って言った。

「ほんまに出たら面白いんちゃう? あんたら昔、中学の文化祭の漫才大会で優勝してたやん。あれ、めちゃめちゃ面白かったし」

マコトが「オモロイ。うん、オモロイ。やろか、駿ちゃん。どうせ、しょうもないヤツしかおらんやろ。俺と駿ちゃんが組んだらイケるんちゃう? 50万円取りにいこか」と煽り、「きよぴーがコンビ名決めてや」とオカンに言った。

「マコト、悪ノリすな! オカン真面目やから、本気で考えるから」と言う僕の反論は悉くスルー。マコトの請求をうけたオカンは、白髪混じりの頭を抱えてリクライニングベッドにもたれかかり熟考した。めちゃめちゃ真剣にコンビ名考えるやん、とオカンをイジって僕とマコトは笑った。

「整いました!」

「まぁまぁ時間かかってるし。ほんで、どんな名前?」

「ストロベリーズってどう?」 

「ストロベリーズ? オカン、それむっちゃ可愛いすぎるて。目の前のイチゴのショートケーキにひっぱられすぎやから!」と僕が言うと、オカンは「いや、そっちちゃうねん」と返した。マコトが不思議そうに「どういうこと?」とオカンに問うた。

「最近、私な、イチゴ鼻が気になってんのよ」

「イチゴ鼻?」

「鼻の毛穴に皮脂とかヨゴレが溜まってるんやろな。黒ずみが目立ってきて。私もええ年やろ? イチゴ鼻が気になってさ。正直まだ私だって再婚の可能性あるし。白馬の王子様が現れて、恋愛に発展とかありえるかもしれへんし」

語り終わったオカンは、暫く自分の義務を免れたような顔をするが、僕はしつこく問う。

「ほんで?」

「ほんでて? それだけ」

「それだけ? 俺らのコンビ名とどう関係あるん?」

「いや、特にないねんけど」

「特にない?」

「強いて言えば……、雰囲気?」

「雰囲気!?」

「そう、雰囲気。コンビ名の由来なんてそんなもんやろ」

「ええ加減やなぁ」

「そんなん言うてる駿ちゃんも、ようみたら、ちょっと、イチゴ鼻やで。やっぱ親子やな。私のイチゴ鼻、駿ちゃんのイチゴ鼻、マコトくんが買うてきてくれたイチゴショート。このイチゴ3つで、複数形のストロベリーズでちょうどええやんか」と開き直るオカン。マコトがくすくす笑い出して「ストロベリーズええやん」と僕の鼻を見た。僕は少しイラっとくる。

「っていうか、ほんまの話な。私のイチゴ鼻、早く治したいねん。本格的なクレンジング剤を買ってみよかな、って思うんやけど結構高いねんなぁ」

「もはや、俺らのコンビ名の話が行方不明やん」と僕は呟く。

「最終手段なんやけど……。抗がん剤を節約して、高級クレンジング剤を買おかな」

「いやオカン、そのチョイスは抗がん剤で!」

「大声出しなや、やかましいわ」

「当たり前やろ! オカンは、これから、がんと闘わなあかんねんで。そんなもん抗がん剤やめて、クレンジング剤買ってどないすんねんな?」

「冗談やん。喧しい息子やなぁ。病人に、やいやいやいやい、言いなや。ほんま胃が痛いわ」

オカンの自虐ネタに、僕とマコトは声を揃えて「いや、胃ないし!」とツッコんだ。

「おっ! 今のツッコミの間ええやん。見えたね。賞金50万円!」

オカンはケラケラと病室の天井に散らばるトラバーチン模様を眺めて笑った。僕とマコトも一緒になって笑った。僕はNK細胞の増殖を願った。

※本記事は、2019年11月刊行の書籍『尼崎ストロベリー』(幻冬舎ルネッサンス新社)より一部を抜粋し、再編集したものです。