「初回は、俺、美樹、駿ちゃん、萌ちゃんのダブルデートがええかな。その方が自然かも」

「マコトさ、その萌ちゃん? 俺のことなんかタイプとか言うてくれて、ほんま有難いねんやけどさ……、申し訳ないねんけど、今回はなしで」

「嘘やろ?」

「マジ。今回はなしで。俺、女子と付き合ってる暇ないねん。すまん」

マコトが目をパチクリさせて「駿ちゃん、正気? 学年屈指の美女やで? Fカップやで?」と言う。念には念を入れて「正真正銘のFカップやで?」ともう一度確認する。僕はセイイエス。

「Fカップの学年屈指の美女が駿ちゃんのことが好き、と言うてる奇跡的な情報を掴んでいる。その情報も連れの彼女からの情報ソースで確実。もはやPKやで。ボール蹴ったら、ほぼゴールやで。この状況でボール蹴らへんって選択肢はないやろ?」

「今回はなしで。もちろん、ほとばしる性欲はギンギンにあるんやけど……。今回はなしかな」

「……マジか」

17歳の僕は童貞だった。そのことはもちろんマコトも知っていたし、だからこそ、僕にFカップ案件を積極的に持ってきてくれたのだ。僕に童貞喪失させてくれようとしていたんだ、マコトは。本当に優しいヤツだ。こいつは。 

本当のことを言えば僕だって自制しているよりも、現実女子と駆けっこしたり、ノリノリ女子の盛り上がりに乗ったり、アソビ仲間にくわえてもらったりして割り切って遊びたい。でも、時間がないんだ。悪いんだけど僕には本当に時間が無い。青春謳歌している同級生達を指をくわえて見ているだけの自分でいるしかない。

僕たちの青春は、たしたりひいたりかけたりわったりと至極多忙にできている。その既得権益であるキラキラ輝く青春の加減乗除を履行できない自分に、時折、胸糞が悪くなる時だって正直あるのだけれども、これも自分の運命なんだよなぁ。

残りのたこ焼きを、全てたいらげたマコトは、チェリーな僕から発せられたまさかの拒否権発動を未だ咀嚼できないようだった。しばらく僕を見ていたマコトだったが、やがて苦笑いをして当該案件について再び口を開いた。

「駿ちゃーん? でも、なんでなん? こんな奇跡的なチャンス、今後もうないで」

「せやなぁ。俺、今な、女子と遊んでる場合じゃなくてさぁ」

「何かあんの?」

「……うーん。……まぁ」

「え? やっぱり、なんかあんねや?」

「そう……やな」と僕は愚図愚図した。

「何なん? それやったら言うてや、水臭いなぁ。教えてやあ。もったいぶらんと」

「あのな、マコトに言うてなかったんやけどな……」マコトが、うん、と相槌をひとつ。

「実はオカンが……、病気で入院してん」

「きよぴーが?」

「がんになってしもてん」

天衣無縫なマコトの表情が、ゲリラ豪雨が降る前に空を覆う雲のように急激に黒く曇った。

「きよぴーががんって……。駿ちゃん、なんで早く言わへんねん!?」

「なんか、マコトに心配かけるんも、ちゃうかなぁって思って」

「アホ! 駿ちゃんはほんまにアホやな。そんなもん、親友に一番に言うことやろ!」

「すまん」

「で? どんな感じなん?」

「それが最悪でさ……。スキルス胃がんっていう進行ガンでな。来週手術でさ、お腹切って胃を摘出する」

「スキルス胃がん……マジか……。きよぴー、治るんやろ?」

「最悪のパターンで、余命6ヶ月って言われた」

「余命6ヶ月て……」

※本記事は、2019年11月刊行の書籍『尼崎ストロベリー』(幻冬舎ルネッサンス新社)より一部を抜粋し、再編集したものです。