二人のやり取りがひと段落したので、僕とマコトは黙ってたこ焼きに集中した。100円割引きセールの効果か店内には結構なお客さんがいた。銘銘の客達が銘銘の会話をしながら、銘銘のたこ焼きを頬張っていた。

僕らが頼んだ8個入りのたこ焼きが残り2個になった頃、ふ、とマコトを見たら、ニタリニタリと怪しい笑みを浮かべている。相当気持ち悪い。

「どしたん?」

「ムフフフフフフ」

「たこ焼き美味すぎて頭がおかしくなったか?」と言う僕に「違うわ!」とツッコむマコト。

「なんやねん、急に笑い出して。気持ち悪いねん」

「ええこと思い出してん」「何?」「え・え・こ・と?」このやりとりが、だんだん面倒くさくなってきて、それを露骨に態度に出す僕を気づかい、マコトは話を前に転がす。

「七組の萌ちゃん、わかる?」「誰、それ?」「二年七組の赤垣萌ちゃんやんか」「赤垣萌? わからん」「マジか、駿ちゃん!? 赤垣萌ちゃん、わからんの?」とマコトが僕の無知を弄る。

「だって、クラスちゃうし。挨拶したこともないし」

「隣のクラスの美女の名前くらいはチェックしとけよ〜。ほんま、駿ちゃんの女子へのアンテナどないなってんねん? ほんま、あかんで。ほんま、あかん。駿ちゃん、セブンティーンやろ? 今、女子へ向けて、ベクトルが強烈にいく頃合いやろ?」

「強烈にいく頃合いなんやろなぁ?」

「ほんま、キツイな。お笑いオタクとマザコン足したら、こんな残念な仕上がりになるんやな」

「やかましいわ! んで、その萌ちゃんって誰やねん?」

「萌ちゃん言うたら、学年屈指の美女やんか!」ふーん、と僕は乾いた間投詞を挟む。「ちなみに、Fカップ!」と続けるので、「お前、詳しいな。どこで習たんや?」と尋ねると、「習うもんちゃうねん、駿ちゃん。普通に生きてたら、普通に入ってくるもんやから。それが青春時代の相場やから」と大声を出すマコト。

「あ、そうなんや。で、その萌ちゃんがどうしたん?」

笑顔のマコトが「聞く? ほんまに聞く? ほんまにほんまに、ほんまに聞く?」と変な溜めをつくる。僕は己の不快の一部始終を伝達させたるために、憎悪に満ちたヤンキーが喧嘩を売る直前のような、ろくでなしな顔で睨みつける。

「マコト? お前の顔面に、めちゃめちゃ打点高めのドロップキック喰らわしてええ?」

「それはやめとこか」

「かかと落としでもええで?」

「やめとこ。今から本題言うから許して」

僕はつまようじで、たこ焼きを転がしながら「はよ、言えや」とマコトに催告する。

「学年屈指の美女、赤垣萌ちゃんには好きなタイプの男性がいます! それは誰かと言いますと! な、なんと、まさかの駿ちゃんでーす!!!」

「よっしゃー!!! マコト、このたこ焼き見て?」

「へ? たこ焼き?」

「店員間違えて、たこ二個入れとるねん。よっしゃー! ラッキー! 俺ツイてるー!」

「そっち? そっちの、よっしゃー?」

「せや」と答える僕に「いやいやいやいや、萌ちゃんは?」と目を丸くするマコト。

「萌ちゃんなぁ……。せやなぁ……」と僕は再びたこ焼きを転がした。

「美樹と萌ちゃん、バイト先が一緒で仲良くてな。本人から聞いてるから間違いないねん。駿ちゃんの事がええねんて」

「なんで、俺なん?」

「中学3年の学園祭の時、俺と駿ちゃんコンビ組んで漫才したやん? めっちゃウケて優勝したやつ。萌ちゃん、学園祭でたまたま観てたらしくてさ。あの頃から密かに想ってたみたいよ」

「マジ? そうなんや」

「萌ちゃん、お笑い好きで、面白い人がタイプやねんて。普段の駿ちゃん、オモロないねんけどな」

「やかましいわ」

マコトは体をくねくねしながら、「駿ちゃーん。まぁ、ええやん。向こうがそう想ってくれてるんやからぁ。ほんで、まずどうする? デートのセッティングしよか?」と甘い声を出した。

たこ焼きのように話を前に転がそうとするマコト。僕は「せやなぁ……」と呟いた。

※本記事は、2019年11月刊行の書籍『尼崎ストロベリー』(幻冬舎ルネッサンス新社)より一部を抜粋し、再編集したものです。