マコトはガタッと肩を落として蚊の鳴くような声で「マジかよ……」と言って、ソース臭いテーブルの上に突っ伏した。

「マコトな、大丈夫や。元気だせ」と言って、僕は落胆するマコトの肩をポンと叩いた。

「俺、最近、がんについて、本とかインターネットとかで色々と調べてるねんな?」

「駿ちゃん……。それで、最近、放課後に情報教室行ってパソコンしてたんや」

「そうそう。そんでな、がんを治す凄い方法見つけてん」

「がんを治す凄い方法? 何なん?」

「笑いや」と僕は自信ありげに答えた。

「笑い?」

「そうそう。笑いでがんを治せるんやて!」

「何や、それ? 何かの宗教ちゃうの?」

「ちゃうねん、ちゃうねん! ほんまやねん。体にはな、NK細胞っていう細胞があるんやて」

「NK細胞?」

「ナチュラルキラー細胞っていうんやけどな? この細胞はがん細胞を殺してくれる細胞で、人間の体内にすでに五十億個も存在してるらしいねん。ほんで、このNK細胞の餌は、笑いやねんて」

「笑いが餌?」

「オカンが笑えば笑うほどNK細胞が元気になって、がんを倒しまくってくれるらしいねん」

「マジ? それ、ほんまやったら凄いけど。ちょっと胡散臭ない?」

「俺が調べた結果、これ、ほんまらしいねん。たくさんの医者が研究してるみたい」

「ほんまぁ。そしたら、駿ちゃんができることは一つやな」

「そうや。俺はオカンを笑わせ続けないとあかんねん」

「ええやん。お笑いオタクの駿ちゃんが一番得意なやつや。頑張りや。なんかできることあったら俺もするから。俺、きよぴー大好きやし」

「ありがとな、マコト。治療費もかかってくるしさ、ウチ、親父がいてないやろ? ちょっと、これから気合入れて、俺が色々と頑張らんとあかんねや」

マコトが少しの間をとって「駿ちゃん?」と口を開いた。僕は「ん?」と言う。俯いて「なんか、ごめんな」と言うから、僕は「何が?」と聞き返した。

「そんな大変な時に、萌ちゃんとか、Fカップとか、チャラいこと言うてもて」

マコトは数分前の自分を罪に感じ懺悔をした。

「全然全然。マコトは何も知らんかってんから。でも正直……、Fカップは惜しいけどなぁ」

「それ聞けてよかった。駿ちゃんも健全な男やな。萌ちゃんのFカップも報われるってもんや」

「どうか成仏してください!」と僕らは手を合わせて、Fカップの神様に懺悔をした。

「駿ちゃん、心配すんな! また、別のん紹介するし」

「頼むで、巨乳のやつな」僕が笑う。「任せとき。俺が本気出したら、Fどころちゃうで」マコトが笑う。「マジ?」と僕が聞く。「巨乳中の巨乳や」マコトが大げさに言い放つ。

「何カップ?」

「Zカップ!」

「ドラゴンボールか! デカすぎて、それは逆に気持ち悪いわ!」

愛する母親の死に至る病という重いテーマであったって、僕たちは泣いて終われないんだ。最後の最後は、ボケとツッコミというツールを使って笑いを織り込んで仕上げてしまう。

僕らはいつだってそうだ。いつもそうなっちゃうんだよなぁ。尼崎という風土が僕らにそうさせるんだと思う。

兵庫県に所在するにもかかわらず、市外局番が大阪と同じ「06」。兵庫県民なのに大阪感が強い尼崎市というセカイに生まれ育った僕らに、細胞レベルで染み付いたお笑い気質。この地で何百年かけて醸成されてきた哀しき性なのかもしれない。

僕たちは無意識レベルで笑いを追求する。そして繰り返す惰性の日々から垂れ流された悲哀と笑いをなるたけうまく合併させて、僕たちは生きていくのだ。そう、生きていくのだ。哀しくったって、笑って笑って僕たちは生きていくのだ。

※本記事は、2019年11月刊行の書籍『尼崎ストロベリー』(幻冬舎ルネッサンス新社)より一部を抜粋し、再編集したものです。