4 高気圧酸素療法装置(第二種)導入

国交正常化した中国を訪問

一九七二(昭和四七)年、田中角栄元総理が戦後初めて訪中をして、周恩来首相との間で日中国交正常化が行われましたが、その五年後に私は北京を訪問しています。漢方の勉強をしたいと思ったからです。空港に降り立ち、市内をバスで巡回すると、街中の大半の人々が同じ出(い)で立ちで、毛沢東帽子に国民服を着用している姿にまず驚きました。

数人で訪中したのですが、スーツ姿の我々を見て、土地の人々から逆に奇異な目で見られ、常にどこからか見張られている印象がありました。

治安の問題もあって北京滞在中は集団で行動するようにいわれていましたが、郷に入っては郷に従え、という教えがあるように、共産主義国家の人民の真の姿を知るためには、まず土地の人々に接することだと、同行していた友人と二人で、場末のとある食堂を訪ねました。中では十数人の若い青年たちが夕食の最中でしたが、私たちのスーツ姿を奇異に感じたのか、一斉に箸を置き注目の的になりました。

庶民の感覚は、どこに行っても同じ

異様な雰囲気でしたが、彼らを刺激しないように片隅に二人で席を取り、メニューを取り寄せました。メニューは中国語のみで料理の中身も数量も皆目わからないものの、日本の食堂の感覚で注文しました。

すると、さっきまで奇異な目で見ていた皆が沈黙しています。やがて大皿に大盛りの料理が運ばれてきたのには、びっくり仰天しました。とてもじゃない量です。友人二人では手の施しようがなく、思い切って青年たちを手招きすると、数人の若者たちが近寄ってきました。言葉は通じませんが、そこは漢字圏の国同士です。お互いに筆談で意思の疎通を図りました。

自己紹介で“我、大仲良一”と記名すると、“おお、ターチュン・リヤンイ”と、意思疎通の第一歩、自己紹介が通じました。そこで、お互い初めて笑顔で握手を交わします。どこの国から? 日本から!?

“汝、洗足、我国訪、熱烈歓迎”と、まるで日本の無頼漢が足を洗って真面目な人間になって、我が国を訪ねてきたことを心から歓迎する、という意味でしょう。あの忌まわしい戦争を反省し、今こうして友好の印として訪中してくれたことを心から喜んでいると、すっかり打ち解けた雰囲気になり、青年たちとともに料理を分け合って、素晴らしい初訪問の印象でありました。

どこの国も、政権中枢部の一部の人たちの意向次第で国の方向性が変わってくるものですが、一般庶民の感覚はどこの国も穏やかで、慈愛に満ちた人たちなんだなあ、ということを痛感した出来事でした。今後の友好と両国民の幸せのために、お互いに努めようと互いに握手を交わし、別れを惜しんだものでした。

高気圧酸素療法装置の導入

その後、天安門広場や万里の長城を汗を流しながら散策し、さらに漢方薬の精製工程を見学しました。最後に、医療施設で初めて高気圧酸素療法装置による治療現場を訪問しました。技師の説明により、減圧症(いわゆる潜水病)をはじめ、諸々の疾病の治療成績を見せてもらいました。病気によっては、大変良好な結果を残していることを知りました。

我がふるさと沖縄は四方を海に囲まれ、将来必ずや海洋レジャーの時機が訪れることが予測されました。特に、沖縄のきれいな海に潜って水中散歩を楽しむ、いわゆるスキューバダイビングが盛んになることがいわれていました。当然、水難事故も多くなる可能性がありましたので、そうした事故に遭われた方を救うためには、この装置が必要だろうと考えました。帰国後、我が国の高気圧酸素治療の実態を調査の上、民間病院としてはいち早く、一九八三(昭和五八)年に大型(第二種)の治療装置を導入しました。

いわゆる潜水病の原因

我々人間をはじめ、すべての動物は、無意識のうちに一気圧という環境の中で、酸素をはじめ種々のガスを吸って生命を営んでいますが、潜水という高い気圧環境から急速に浮上すると、体内に存在する窒素ガスが肺から排出されずに組織内に残ることによって、さまざまな症状が起こってくるものです。

潜水病以外にも有効な高気圧酸素療法装置

この症状に陥った患者さんに対する治療法は、人工的に大気よりも高い気圧の環境をつくり、その中で患者さんに高濃度の酸素を吸入させ、窒素ガスを体外に排出させることによって、血液や体内組織に溶解した酸素の量を増やし、新陳代謝や体の機能を改善させる特殊な治療法です。

当初は、このように潜水病に特化した治療が主でしたが、近年は治療技術の進展や多様化、さらには保険制度の改定などで、現在では死亡原因の上位を占める脳梗塞、心筋梗塞をはじめガス中毒、火災現場や空気の流れの悪いところで起こる一酸化炭素中毒、突発性難聴、重症な熱傷、低酸素の状態を原因とする脳の機能障害、頭の手術後の後遺症としての運動麻痺、脊髄疾患による運動麻痺、糖尿病を原因とする四肢末梢部の血液循環障害による壊死症状、放射線治療後の出血症状など、各専門科での病気の治療が可能となり、多くの患者に福音をもたらしています。

※本記事は、2019年12月刊行の書籍『 ひたすら病める人びとのために 上巻』(幻冬舎ルネッサンス新社)より一部を抜粋し、再編集したものです。