5 全国法人会連合、人間ドック実施病院の指定を受ける

健康増進への取り組み

医療法人寿仁会沖縄セントラル病院の第二の理念として挙げている“健全なる方々のさらなる健康増進を目指して”をモットーにしたのには理由があります。

沖縄の人々は、戦後のアメリカナイズされた食生活のために、内地の人々に比べて欧米風の肥満の方々が増えつつありました。そういう状況を見て、私は健康診断の必要性を痛感し、一九八五(昭和六〇)年に検診センターを設立しました。

一般健診から定期健康診断、職業病検診、特定健康診査、採用時健診、乳がん、子宮がん検診、甲状腺検査、上下部消化管検診などや、脳ドックといった、特殊な職業の方々の健康診断に対応し、栄養指導、運動指導、心理相談まで行っています。

さらに、他の多くの健診センターでは行っていない、潜水業務に携わっている方々のための高気圧酸素治療装置を使用した健診や、沖縄県下で唯一、国土交通省の指定を受けた航空パイロットの厳しい健康診断を推進中です。

脳ドックは今後必要になる

脳ドックにおいては、頭部CTスキャンを必修検診項目に設定し、その上で、精査を要する方にはMRI、MRA、脳波検査などをオプションで行い、県民の健康増進のために尽力しています。

こうした取り組みの成果としては、「全国法人会連合 人間ドック実施病院の指定」を受けたことが挙げられます。

生活習慣病は、今では珍しいものではなくなりましたが、日本国内では確実に増え続けています。特に食事に偏りが見られるようになり、肥満傾向にあります。また、ストレス耐性が弱くなり、精神的なダメージに対する弱さも目立ってきています。

こうした傾向は、知らず知らずのうちに、脳に思わぬ影響を及ぼすことがあります。

くも膜下出血、脳腫瘍、脳梗塞、脳出血など、脳には致命的な障害を与える危険な病気が多々あります。そうした病気に対する予防はまだまだ十分とはいえません。

脳神経外科診療病院の創立以来、携わってきた医師として、私は早くからこれらの病気を未然に防ぐための手段として、この脳ドックの必要性を感じて設置しましたが、全国的にも速やかにこの態勢を整え、中高年のみならず三十代以上の男女には、定期的に検診を施すようにしてほしいと願っています。

国の施策は、どうしても後手後手に回る傾向がありますが、高齢化社会を迎え、若い世代に対する負荷が増えている現代日本では、これからの社会の担い手である二〇代、三〇代、そして働き盛りの四〇代の方々へのケアを、ぜひとも支援していただきたいと思っています。

6 インドにおけるポリオおよびコールドチェーンの実態調査

ロータリークラブからインドへ派遣

国連創立四〇周年を記念して、来(きた)るべき新世紀に、数多くある地球上の伝染病の中から“ポリオ”を撲滅(acute anterior poliomylitis)しようという遠大な計画『polio plus campaign』が、WHOによって構想されました。

実態調査をしなくてはいけないわけです。世界規模になりますから、その担い手をどうしようかということになりました。そのとき手を挙げたのが、“ロータリー”です。いわゆる“ロータリークラブ”は、全世界に幅広い組織を持っています。そのため、国際ロータリー財団の奉仕活動の一環として、この実態調査を進めてまいりました。

そのロータリークラブのうち、日本とカナダが共同グループで、インドをターゲットに計画を進めることになりました。当初、東京麹町ロータリーに所属する二人の医師が、先遣隊として南インドへ調査に行きましたが、帰京された後に、原因不明のまま二人とも他界されました。

このため、その後のインド行きを在京の方々は尻込みされ、致し方なく沖縄のロータリークラブにお鉢が回ってきました。原因不明のまま死去された二人のことがありましたから、県内のロータリアンも積極的な参加者がいません。そのとき、私がたまたま那覇西ロータリークラブの国際奉仕委員長をしておりましたので、幹事ともどもインドに行くと手を挙げました。

インドの国情

お釈迦様が悟りを開かれたインド。今でこそ世界をリードするIT関連の大国となりましたが、私がインドに赴いた一九八八(昭和六三)年当時は、一八世紀と二〇世紀が混在したような、まさに謎に満ちた不思議な国という印象でした。出発に先立って、インド国家のあらましを知る必要に迫られました。

東西約四〇〇キロメートル、南北一八〇〇キロメートルに及ぶ国土は、我が国の約一〇倍です。人口は当時の推定値で八億五〇〇〇万人で、日本の約七倍もいます。国民所得は日本の五〇分の一と低く、しかもインド国内は数ヵ年連続の干ばつで、すこぶる食糧事情も悪く、すでに数百万人単位の集落が食糧を求めて移動し、かなりの餓死者が予測されている状況でした。

このような状況下においても、人口は年間一五〇〇万人も増え続けており、さらに、インドが多民族国家であることもわかりました。各州で言葉が違い、それぞれの文化があってユニークな特性を持っております。各州は、日本の都道府県以上の政治的な特権を持っているようです。

つまり、インドでは、各州がいわば連邦共和国のようなもので、中央政府と州政府の対立は、長い間インド政治の争点の一つになっており、二代にわたるガンジー首相の悲劇も、このような社会的背景にあったようです。

北部インドはイスラムの影響を強く受けており、他方、南インドは別の文化を基調とし、それぞれに強い個性を持っています。

この国は、北はヒマラヤの寒帯地方から、南は温帯・熱帯地方まで、さまざまな表情を持つ大自然を背景に、起源の異なる幾つもの文化の流れがそれぞれに花開き、それに従って、そこに住む人々の生活も多様に展開されています。

インドはヒマラヤ山脈を境に逆扇子形に南に広がり、北部は日本の九州とほぼ同じ緯度に位置しています。南は熱帯性の気候で、最北部は砂漠の乾燥地帯となります。さらに、ヒマラヤ山脈付近は高山性の寒帯気候と、実にバラエティに富んだ国となっています。