第一章 出逢い ~青い春~

「ご両親から愛されていなかったと?」

「いえ、愛してくれていたとは思います。でも、いい子でいなければ、素直な女の子でいなければ、何だか愛してもらえないような気がして、そう振る舞っていました。だから、自分の事がよくわからなくて、淋しかったです。……父を亡くして、今また特に淋しいって感じています。……首がないって、リアルで本当に恐い夢でした」と言い、優子はまだ震えていた。

(かわいそうに……)柚木は、夢の分析をし、優子が多感な頃、反抗期もなく、自己形成の発露を閉ざされ鬱積したまま大人になってしまったと理解し、そう思った。

「私……今、母と居て思うんです。父じゃなくて、私が死ねば良かったのにって……」

優子の瞳から、涙がこぼれ落ちた。

「奥宮さん。そんなふうに思ってはいけません。お母さんにとって、貴女はかけがえのない大切なお嬢さんです。お父さんの事は、本当にお気の毒でしたが、貴女がご自分を責めてはいけません」

柚木は親身に言った。

「先生。母をどう慰めてあげればいいんでしょうか? あんなに社交的だった母が、毎日家に閉じこもってしまって。私達、もう長らく笑った事がないんです」と、優子は泣き続けた。

「時間です。よく言う事ですが、時間が解決するっていうのは本当です。大切な人を亡くされた喪失感は決して消えませんが、時間をかけて、受けとめられるようになっていくものです。それより、ずっとお聞きしていると、貴女はお母さんの心配ばかりを仰る。だけれど、貴女ご自身が傷ついている。貴女は本当に優しい人です。でも、ご自分にも優しくしなければ、心が折れてしまいます。現に、過換気症候群になり、不眠症も発症しておられる。ご自分をもっと大事にして下さい」

柚木は優子を思い、本当に胸を痛めてそう言った。

「ありがとうございます。先生は本当にお優しくて、ご親切ですね。感謝しております」と、優子は涙を拭きながら言った。

「恐かった夢は、お忘れなさい。深追いしない事です。ちょっと休んでいかれますか? 隣りにベッドが一台ありますから、良かったら休んでからお帰りなさい」と、柚木は勧めた。