第一章 出逢い ~青い春~

「えぇ。まぁ、大変といえば大変ですが、僕は好きでやっています。世の中には理不尽な事がいっぱいあって、しいたげられ困っている人がいっぱいいる。そんな人達のために、少しでも役に立つよう、働きたいって思っているんです。大手の会社の顧問弁護士なんかになれば、手堅い収入もあるんでしょうけど、そういうのより、僕は弱い立場に追いやられて困っている市井の人々の役に立ちたいんです。理想主義者って、よく言われるんだけど、そうあってこそ本当の弁護士じゃないかって、そうありたいと思って頑張っています」

天地はつい、熱弁をふるった。

「天地さんて、本当に素晴らしいわ。今のお話、私、感動しました」
優子は天地の顔をジッと見つめて言った。

「僕達、名前も同じ字だけど、この間に出逢ったばかりなんて気がしないなぁ。ずっと前から、貴女の事を知っていたような気がする。今、僕は不思議で幸せな気持ちですよ」と、天地は感慨深そうに言った。二人は見つめ合って、食事を楽しんだ。

優子が時計を気にし始めた。

「そろそろ帰りましょうか?」
「えぇ」

「今度、そうだな、水曜日に夕食をご一緒できませんか?」と、天地は聞いた。
「えぇ。お花もありませんから、大丈夫です」
「良かった。じゃぁ、又しあさってに。とにかく家までお送りします」

二人は店を出た。

JR平野駅を降りて、優子の家までは、歩いて十二分ほどだった。昔からの旧家らしい門構えで、表札に「奥宮」とあり、庭の大きな槙の木が見えていた。

「ありがとうございました」と言い、優子がお辞儀をした。

「僕こそ、ありがとう。楽しかった」と言い、天地は右手を出した。優子も自然と右手を出し、二人は握手をした。優子は初めて男性に触れ、ドキッとした。

「じゃぁ、また連絡します。どうぞ入って。お母様が心配されてるでしょうから」と言い、天地は優子が門の中に入るよう促した。優子が中から門を閉めるのを見届けてから、天地は帰って行った。

優子が家に入って時計を見ると、九時五十五分だった。真弓は、娘から一部始終を聞き、飛びあがらんばかりに喜んだ。

「もう一度、天地さんの名刺を見せてちょうだい!」と言った。優子は、バッグから手帳を出し、表紙にはさんでいた天地の名刺を母に渡した。

「天地優さんだなんて! 優子ちゃん! これこそ運命の人よ! あぁ、お母さん、うれしいわ! 貴女がどうなるかって、心配したけど、良かったぁ」と、泣かんばかりに喜び、笑顔を見せた。

母の笑顔を見て、優子は本当にうれしく思った。

「今度、家まで送って頂いたら、きっと家に入って頂いてね。お母さん、ちゃんとご挨拶したいの。ねっ!」と、優子の手をとった。優子は黙って頷いた。

真弓は、優子が買った菓子折を開け、仏壇へ供えた。達雄の遺影に微笑みかけ、手を合わせ拝んだ。優子も一緒に手を合わせ拝んだ。