第一章 出逢い ~青い春~

金曜日の午後二時。優子は、また病院へ行った。

待合室では、モーツァルトの「ピアノ協奏曲第二十一番ハ長調」が静かに流れていた。優子は、この曲が好きだった。診察室に呼ばれた。

「先生。教えて頂いた法律事務所へ行ってきました。おかげさまで、天地先生が全てして下さるって。本当にありがとうございます」と、優子は頭をさげた。

「そうですか。それは良かった」と、柚木は自分の事のように安堵した。

「それで、発作はまだ起こりますか?」
「えぇ。昨日も夕方、食事の支度をしようと台所に立っていたら、息がおかしくなりそうで、すぐ先生に頂いている頓服薬を飲みました。そしたら、十五分ほどで治まりました」
「お辛いですね」
「でも、おかげさまで、前よりはずっとましです」
「夜は眠れていますか?」
「お薬のおかげで眠れています。ただ、昨夜、凄く恐い夢を見ました」

優子は、まだおびえているように首をすくめた。「どんな夢ですか?」と言い、柚木は優子をジッと見つめた。

「私、首のない少女だったんです。それに裸でした」と、優子は震えながら言った。

柚木は机に両肘をつき、身をのりだして聞いた。

「私、家の座敷の押し入れの中に、何故だか身を隠していました。外の様子をうかがって、押し入れから出ました。四つん這いで出てきて、誰もいなくて……そして、自分が裸だと気付いて、十三歳くらいの体でした。中学生だと思いました。