私(西野鉄郎)は高校生に英語を教えています。N(西野作蔵)君は私の塾のOBです。上智大学の2年生で、ロシア語を専攻しています。帰省中の冬休みのある日、私たちは茶房古九谷(九谷焼美術館内)で会いました。話は弾み、3日連続で、「織田信長と古九谷」について話し合いました。

1日目 新信長論 利家と信長

『国盗り物語』(司馬遼太郎)、『織田信長』(山岡荘八)によって植え付けられたイメージはなかなか払拭できませんが、本章(1日目)はこうした織田信長像からかなりかけ離れています。小説ではなく、一種の論考のような内容を持っている本作品の導入部としては、読者の興味を引きつける内容です。

禿鼠、浮気するな!

私:さて後半に入ろう。後半は、NHKの大河ドラマの名場面から始めよう。おねが秀吉の度重なる浮気を信長に愚痴る。信長は「禿鼠、浮気するな!」と秀吉に手紙を認める。

N:カリスマワンマン社長が信長で、その従業員が秀吉で、その従業員の妻がおねでしょ? カリスマワンマン社長に夫の浮気を妻が直訴し、その社長が従業員に「ハゲ、浮気するなよ!」でしょ? 絶対ありえません!

:どう考えても、ありえない。そのありえないことがおねと信長の間に起こっている。それが信長だな。

N:作り話では?

:それが信長の秀吉宛の手紙が残っているんだなあ。読んでごらん。信長のやさしさ(人格者ぶり)が手紙から溢れて出ているから。