天国飯店の定休日は毎週火曜日。アルバイト生四人で、月曜から土曜の間の五営業日を分担する。四人のうち誰か一人が二営業日に入る。その者以外の三人のうちの一人が日曜日に店に入る。日曜日は大学が休みなので、朝の十時から閉店の午後九時まで十一時間店に入ることになる。

「ほな、俺、明日もバイトやさかい、おっちゃんに自分のこと話してみるわ。多分、おっちゃんも構へん言わはる思うねんけど」

夏生は、「できない」とは思わなかった。不安ではあったが、西山がおっちゃんの動きに合わせて自分自身の動きを作っていることに、何か美しいものを感じていた。そんな動きができるようになりたいとも思った。

土曜日の講義が終わって学生食堂に向かう途中、夏生は日本文学科の掲示板で立ち止まった。いくつかの自主サークル活動への勧誘チラシが画鋲で留められている。

その中の前近代文学サークル「夏雲 (なつぐも)」に視線が行った。夏生は江戸時代の文学について勉強してみたいと思っている。サークルの名前に夏生の夏が使われていることにも気持ちを引かれた。サークルは毎週水曜日の午後四時半から学生が自由に使用できる文学共同研究室で行われることが記されていた。

直近の活動は来週の水曜日で、新入生を歓迎する会となっている。活動後には河原町四条に繰り出して歓迎コンパが行われることも書いてあった。生協で買った小型の手帳を取り出して予定を確かめてみる。西山が昨夜知らせてくれた来週のアルバイト日は、月曜日と金曜日だ。

夏生はサークル「夏雲」に入ってみようと思った。どんな先輩や仲間がいるのか全く分からないが、一人ぼっちで作品を読み進めるよりも何か明るいものを予感した。

掲示板の前の廊下は講義室から出てきた学生たちで混雑し始めている。話し声や足音が入り混じり騒がしさが増す中で、夏生は、よしっと手帳に夏雲、十六時半、共研と書き込んだ。手帳を頭侘袋に入れて横を見ると、女子学生が一人で掲示物に見入っている。