栗に願いを

「ありがとうございます! 助かります!」

そう言って彼は、持っていた荷物を床に置いた。砂時計をひっくり返した時のように、そこから彼と過ごす時間が始まったのだ。

そんなに長くはここにいられないだろうと思い、なるべく今日明日中にはすべての収穫を終わらせようと、私の中で簡単な予定を立てた。左向くんはその予定に従って、テキパキと動いてくれた。

「天気が良くて気持ちいいですね」
「そうね、昨日までは曇りが続いていたんだけど、今日はとてもいい天気」
「こちらに住んで長いんですか? 冬……寒くないですか?」
「六年になるかな。最初は桁外れの冬の寒さにびっくりしたけど、どこでも暖房は効いているし、移動も車が多いから慣れると大丈夫よ」

会話は作業中続いたが、さすが男性が手伝ってくれると作業はスムーズに進み、彼が訪ねてきてくれたその日の半日で、予定通りの収穫ができた。ここに泊まるということは、食事も一緒にする訳で、私は久しぶりに二名分の食事を作ることになった。

いつも多めに作ってはいるものの、残って冷凍にすることが多かったけど、今日はそんな心配もなさそう。自分が食べるだけではない食事を作るという作業は、妙にヤル気が出た。誰かが一緒にいるってことで、こんなにも違うんだ、と改めて感じたり。

「未希さん、ここ直しておきましょうか?」

前からちょっとネジが緩んでいて直さなきゃなーと思っていたダイニングの椅子に彼が気づいた。

「あー、ありがとう、玄関の前の引き出しのところに工具が入っているから、探してみてくれる?」

自然に会話や物事が進んでいることが、とても心地いい。私はダイニングで彼との時間をもっと楽しく過ごせるように、と料理に腕を振るっていた。

「ワイン、飲める?」
「はい、頂きます!」

さっとつまめる前菜をテーブルに並べて、「先に食べててもいいよ」と言ったけど「一緒に乾杯して食べましょう!」と彼は言った。好き嫌いはないようで、私の作ったものを「これは何の調味料ですか?」などとよく聞いた。

※本記事は、2020年8月刊行の書籍『君と果実を』(幻冬舎ルネッサンス新社)より一部を抜粋し、再編集したものです。