ブルーベリードリーム

苦手だった子供にもようやく慣れてきた頃、ある父子(おやこ)が目に入った。痩せているように見えるが、鍛えられているのが分かる体型の、上下紺のスポーツウェアを着たお父さん。足に障害があるようで、少し引きずったように歩いていた。

繋いだ手の先には、かわいいブルーのワンピースにタイツ姿の女の子。その女の子が僕の方に歩いてきてこう言った。

「ブルーベリーをつみたいの」
「お父さんと二人かな?」
「うん、おかあさんはおそらのうえにいるけど、おかあさんのまでたくさんほしいの」

この子の表情がなんともいえず懐かしく、声も僕の中にすっと溶け込んだ。

(なんだろこの感じ、なんか夢で見たっけ?)

考えあぐねていると、後ろからお父さんが僕を見つめて驚いていた。

「お~、もしかして春日かぁ? ここでなにしてる~?」
「……ん、松井? お~久しぶり、元気? あれは娘?」

ちゃんと名前が出てきた自分を褒めてやりたかった。この松井は学年の中でもかなり地味なヤツだったから。でも、一瞬で、いろんなことが頭を過る。

(お母さんはお空の上。しかもあいつ高校時代は、足ひきずってなかったよな)

農園の中を無邪気に走り回る姿や笑顔がなんとも眩しい。自分が子供に慣れてきたせいもあるのかな? と意識しなくとも、その子のことを目で追っている自分がいた。

「かわいいね、何歳?」

核心には触れずにいよう。いろいろ詮索するのも……と思っていると、松井がひと息置いて、何から話そう? と、言葉を探すように、娘を見つめながら、こう言った。

「葉月、あ、娘ね。葉月が二歳の時に交通事故に遭ってね、俺は足をやられて、葉月は無傷、でも母親は、助からなかったんだ」

あまり表情を変えずに話す様子や口調から少しは時間が経っているということが感じられた。こんなにかわいい子供を残して旅立ってしまうなんて……。次にかける言葉が見つからないでいた僕に覆いかぶせるように松井は続けた。

「奥さんってさ、奈緒だったんだ」
「え? 奈緒? みんなのアイドルだったあの奈緒?」
「そうなんだよ、同窓会で再会してね。在学中はあまり話さなかったけど、もちろん奈緒のことはみんな知ってたし、俺の方から話しかけてみたら、奈緒も俺のことは覚えていてくれてさ……」

奈緒と親しくなってから、家に行くと、庭にブルーベリーが植えられていたこと、そのブルーベリーを一緒に摘み取って二人で食べたこと、奈緒の母親がえらく自分を気に入ってくれたこと、松井は嬉しそうに奈緒の話を聞かせてくれた。

※本記事は、2020年8月刊行の書籍『君と果実を』(幻冬舎ルネッサンス新社)より一部を抜粋し、再編集したものです。