ブルーベリードリーム

エントランスの辺りは最近手直ししたのか新しくてきれいだったけど、中に入ってみると、アットホームな雰囲気で温もりのある空間が広がっていた。ゆっくり探るように歩いて、摘み取り農園の方に行ってみると、子供たちがグループに分かれてブルーベリー摘みをしていた。

その近くには、いかにも子供に好かれそうな風貌のおじさんが子供たちに話しかけていた。子供が苦手な僕はその場から離れ、売店を通り、事務所のような場所に辿り着いた。表に立てかけてあった「スタッフ募集」の色あせた看板がまだ有効なのかどうかを知りたかったのだ。

「園長に聞いてみてくれますか?」

そう言われて案内された先にいたのは、さっきのおじさんだった。納得。ブルーベリー摘みが終わったのか、子供たちは先生に先導されて並んでいる。園長がニコニコしてその場から離れたので、「あの……」と話しかけてみる。

「あ、はいはい、あちらで待っていてもらえますか」

彼が指差したのは、売店の中にあるイートインスペースの隅っこの席。僕は、「どういう話をしたらこの人に響くんだろう」などと考えながら待っていた。

「あの、突然で申し訳ありませんが、スタッフはまだ募集されていますか?」
「はい、してますよ。万年人手不足なんでね」
「そうなんですね、僕は全く経験も知識もないんですが、やっていけますか?」
「気持ちと元気な体があれば大丈夫ですよ。今までは何をされていたんですか?」
「東京で出版社に勤めていました」
「そうですか。ご家庭の事情があって帰ってこられたんですか?」
「いえ、そういう訳ではなくて、いつかは長野に帰ってくるつもりだったのが少し早くなっただけです」

丸山園長は、僕の話に丁寧な相槌をうってニコニコしながら聞いてくれた。そしてこの農園のこと、例えば、農園の広さとか土壌についてなど専門的な話や、ブルーベリーの性質、毎年丁寧にブルーベリーを育てて、大きな実を付けた時の歓びとか、本当にこの人はブルーベリーを愛しているんだな、ということが伝わってくる話を聞かせてくれた。

そして何より、この一言が僕の中に刺さったのだ。

「大切な人を忘れないために、この農園を守っているのでね」

その一言の向こうに見え隠れする園長の陰の部分、明るい表情だけではないこの園長の懐に僕は入ってみたくなった。

「春日さんさえよろしければ、明日からでも来てもらえませんか」

翌日から僕はこの丸山農園に通い、体をフルに動かして働いた。ブルーベリーの手入れの手伝い、売店の商品の品出し、荷物運びから、農園のHPのブログ更新の作業まで、何でも引き受けた。

若い男性がいないので、力仕事は全部僕、パソコンが得意な人もいないので、お問い合わせのフォームを作ったり、それに答えたりと、日々やることだらけで心地よい忙しさを味わっていた。

丸山農園の売りはブルーベリー摘み体験。近くの保育園、幼稚園や、小学校の遠足にも使われていた。

園長はいつも表情豊かに子供たちに話しかけていた。まるで紙芝居のように、分かりやすくブルーベリーを育てる方法や手入れの仕方、そしてでき上がった実を大切な宝石のように表現していた。その園長の紙芝居風なお話は僕にとっても楽しみの一つだった。

※本記事は、2020年8月刊行の書籍『君と果実を』(幻冬舎ルネッサンス新社)より一部を抜粋し、再編集したものです。