第1部 捕獲具開発

3章 仕掛けとその効果

4 餌付け機能を備えた1匹取りの仕掛け

まず仕掛けの構造について説明すると、シーソー板を使っている点では前作と同じなのだが、入口から入ったネズミが斜面を登り、水平な金属板を踏んだ時に、その重みで斜面が入口を閉じるように回転するよう工夫を加えた。さらに、長い尻尾が外に出ていても捕獲できるように、二段階で仕掛けがロックするような機能も備えている。

そしてこの仕掛けは、中に入って餌を食べても仕掛けがロックしないフリーモードと、中に入ると仕掛けがロックするロックモードの切り替えができるので、 餌付けを行ってから捕獲することができる。

しかも、仕掛けがロックする時にほとんど音がしないので、捕獲具を集中させて 設置すればネズミを集めて一網打尽にできるはずだと考えた。

それまでにもいくつか特許の出願を行っていたが、これは初 めて特許を取得できたアイデアである。ドブネズミはもちろん、 クマネズミの捕獲にも成功した仕掛けなので、捕獲例の詳細を次に述べる。

A 捕獲例1 ドブネズミの場合

わが社は松山に支店があったのだが、この時は社員の協力を得て松山の水産市場でテストを行った。海岸近くの広い場所の中央に建物があり、建物内には多くの生け簀が並んでいる。水揚げされた水産物を速やかに加工するための店舗が南側に2列に並んでいて、加工処理が終わった朝方には、戦場の後のように、処理後の水産物の残骸が散らばっていた。

それを狙ってウミネコが飛来したり野良猫がうろついたりし ている。目撃例の聞き取り調査を行い、最もドブネズミの目撃例の多い店舗内の冷蔵庫の下に、ドブネズミの巣があるようだと分かった。ドブネズミであると判断した理由の1つは、クマネズミは草食で生魚は食べず、ドブネズミは雑食だからである。

落ちている水産物の残骸が餌になるのであれば、ドブネズミに とってこれ以上素敵な環境はない。店の人の話によると生け簀の中に入って魚を追いかけているネズミを見たとの事だ。

泳いでいる魚を捕まえる事が出来るとは思えないので、死んだ魚が 浮いているのを見つけて、それを食べた事があるのだろう。その味が忘れられないドブネズミがいてもおかしくはない。

ドブネズミは配管の中を通って移動するため水中を泳ぐことも平気だが、クマネズミは水を嫌う。便器の中からネズミが顔を出したという話を聞いたことがあるが、これもドブネズミだろう。

2009年12月19日、仕掛けを合計25台用意し、目撃例のある場所に分散して設置した。巣がいくつあるのか、個体数がどれほどなのか全く不明なので、捕獲具の設置数が生息数を上回る数にする必要があった。餌付けを行って全ての個体を捕獲する気でいたからである。

設置するスペースを広く取れる場合、1カ所に並べて3~4台設置し、積み上げることができる場所では2段にして設置した。一度餌付けをしておいて、全ての個体を一斉に捕獲するという作戦である。

餌はいつものように食パンを用いた。1枚を40個ほどに切り分け、それぞれの捕獲具の中に20個、入口の前に誘因のために2〜3個置いた。12月21日には中のパンを食べている事が確認できたので、設置後2日で餌付けが成功した事になる。

シャッターで仕切られた店舗の外でも喫食が認められたので、捕獲具の数を増やして店舗外にも設置し、合計38台を設置した。試作専門の業者に依頼したので全て手作りである。

年末までに、12月21、23、24、26、29日と5回点検を行い、 必要に応じてパンの交換と補充を行った。フリーモードに設定していたのに、29日にはかなり大きい個体が巣から最も遠い店舗外で1頭捕獲され、中で死んでいた。

ロックモードに切り替えて捕獲する前日に測定するためのはかりを購入するつもりだったので体重は測定できていないが、優に300gは超えていると思われた。設置後3日以内に死んだのだが、体を丸くして 座ったまま死んでいた。体毛が毛羽立っていたのが印象的である。

鼻の先が出血していたので、少しは出ようとして努力したのだろう。だが途中であきらめ、ストレスによる心労で座ったまま眠るように死んだように見えた。

12月26日には、巣近くの店舗内に設置した7箱すべてのパンの残量が0になっていて、パンを交換した後に面白い事が観察された。なにげなく振り返るとドブネズミが近寄ってきていたのだ。

写真を撮って記録したが、捕獲具にパンを入れる時のガ チャガチャと言う音を聞きつけて2匹が飛んできたようである (写1)。

[写真]捕獲具にパンを入れる音を聞きつけて近寄ってきたドブネズミ
※本記事は、2020年6月刊行の書籍『捕獲具開発と驚くべきネズミの習性』(幻冬舎ルネッサンス新社)より一部を抜粋し、再編集したものです。