第1部 捕獲具開発

1章 はじめに

捕獲具を使ってネズミを捕獲しようとする場合、仕掛けに対してネズミがどのような行動をとるかを知ることはとても重要である。例えば昔から使用されている捕獲具に、つるしてある餌に触れるとバネの力で入り口が閉じる仕掛けのものがあるが、仕掛けの構造はシンプルこの上ない。そして、ネズミ捕りと言えばこの仕掛けしか思い浮かばないほど古くから使われてきた。

この仕掛けは、とても強力なバネで入口が一瞬にして閉じるので、俊敏なネズミはもちろん、その他の生き物を捕らえる仕掛けとしても申し分ない。しかし、閉じる際にとても大きな音がする。この大きい音がする事が問題なのである。

性悪なネズミが1匹だけの場合はこれで十分だが、仲間が近くにいた場合には学習されてしまうため、同じ場所でこの仕掛けは二度と使えない。その周辺にいた沢山のネズミたちが大きな音を耳にし、仲間が捕らえられる光景を目にすることになるからである。沢山のネズミが棲みついているのなら、たとえ運よく1匹捕獲できたとしても、この道具だけでネズミを退治することは不可能だと言うことだ。

アライグマのような外来生物の場合も、駆除しなければならないと法律で定められているのだが、集団で行動しているなら、同じ理由でバネを用いて駆除するには限界がある。捕獲具の危険性が近くにいた多くの個体に認知され、結果として捕獲できない個体が一気に増えてしまうからだ。捕獲対象が集団で行動していて、そのほとんどを捕獲し駆除しなければならない場合には、バネを使った仕掛けは全く役立たずの道具と言って良い。

ネズミと一口に言っても人と関わりの多い家ネズミと呼ばれるネズミは3種類いる。農村でネズミと言えばハツカネズミのことを指し、小さいのでかわいい生き物として見られることが多く、勿論この大きな籠を使うこともない。

ミッキーマウスもハツカネズミを元に作られたキャラクターで、かわいい生き物の象徴として考えているため、外国ではあえて殺す目的で捕獲しようとしない。ついでに付け加えておくと、ミッキーマウスが白くないのだから野生のハツカネズミも白くない。白いと思われているのは実験用に飼育されている生体が白いためである。

そして、残る2種類はかわいくない方。ふいに足元を横切られた時に思わず声をあげてしまいたくなるほど大きいドブネズミとクマネズミだ。この2種類のネズミが問題なのである。こいつらを身近な場所で見かけ腹立たしい思いをした場合に、この大きな籠を使う。

しかし、この古くからある仕掛けを用いてネズミを捕獲する場合、ドブネズミは捕獲できるがクマネズミはほとんど捕獲できないことが分かっている。神戸市の港湾局が定期的に行っている捕獲調査では捕獲率に大きな差が有り、手元にある平成18年のデータではドブネズミ52頭1.8%、クマネズミ1頭0.1%である。

捕獲場所が主に港の倉庫なのでクマネズミにとって暮らしにくい環境かもしれないが、捕獲数が0ではないので、いるのだが捕獲しにくいということだ。クマネズミは英名roof ratで、名の通り屋根裏に住む大きいネズミのことである。

寝静まったころに頭の上で走り回っているのだから気になって仕方がない。高いところに登るのが得意で、電線を渡って移動することができる。

実際、侵入経路が分からない場合に電線を引き込む軒先を調べてみて見つかったことがある。それほど身軽であり、まさに鼠小僧と言える、俊敏で神出鬼没なネズミの方がクマネズミだ。

今、クマネズミは都市部で勢力を拡大している。いわゆるネズミ取りのカゴが売れなくなったのも、人口が集中する都市部でクマネズミが増加したことが原因と考えられる。

目障りなネズミを捕獲することができないのなら、大きな籠は商品として失格だ。そのことが徐々に分かってきたのだから、売れなくなるのも当たり前だろう。

しかし、見た目ではほとんど区別できない2種類のネズミが身近な所に住んでいて、ドブネズミは捕獲できるがクマネズミは捕獲しにくいのは何故だろう。これは大きな謎である。クマネズミとドブネズミでは餌の取り方、あるいは仕掛けに対する行動に相違があると考えられるが、この謎が不明なまま放置されているのだから、ネズミの習性に関して、人間がいかに無関心であるかが分かる。