第1部 捕獲具開発

3章 仕掛けとその効果

3 シーソー板を内蔵した1匹取りの仕掛け​

その後、クマネズミが生息する、自宅近くのすし屋で設置し捕獲を試みた。この時、捕獲できなかったのに中のパンが全て食べられる事件が起きたのだ。

食パン1枚を最も奥の位置に立てて置いていたのだが、入り口が開いたままで中のパンだけがきれいになくなっている。パンがあった場所にパンの屑は落ちていなかった。まさに事件である。

ハツカネズミのようにシーソー板を苦にせず、乗り越えて中のパンを食べたのであれば当然捕獲できるはずである。長いしっぽが外に出ていてもロックできる仕掛けで、ドブネズミは捕獲できているのにクマネズミでは捕獲できていない。

仕掛けを分解してみて驚いた。中の金属板の側面に足跡がいくつも残っていたのだ。このことから、クマネズミは足元が急に不安定になる事を極端に嫌うことが分かる。

では、シーソー板を傾けないでアクロバットのように足を踏ん張って1枚のパンをきれいに食べたのだろうか? 食パンは3日もすると乾燥して誘引効果が落ちてくると考えていたので、遅くとも設置して3日後には点検に行っている。

この場合、無理な態勢を維持しながら、1匹が3日以内に食パン一枚を食べたのであろうか、それとも、すぐに他のネズミが学習して、交代で食べたのであろうか?

この点についてはずっと謎のままだったが、最近になって別の可能性が浮上した。別の仕掛けを用いて捕獲を試みた時に観察した事である。餌付けを行っている時に、奥に置いてあった2分の1枚の大きさの食パンが外に持ち出されているのを、たまたま確認することができた。中で食べるより外に持ち出すことができるなら、その方が安心して食べることができるだろう。

この場合、シーソー板を傾けずに時間をかけてでも食パン1枚を外に持ち出したと考えるのが最も妥当だと今は考えている。いずれにしても、クマネズミの行動には驚かされる。

その後もシーソー板の動きを少なくする工夫をいろいろ試してみたがうまくいかなかった。やはりクマネズミはハツカネズミと違って足元が急に不安定になる事を嫌うという事だ。

数年後、シーソー板が徐々に不安定になった時に、クマネズミがどこまで不安定な状況に耐えられるのかをテストしてみた。また、徐々に足元が不安定になることを慣らすことができないかも試すことにした。

側面に調整ネジを取り付けてシーソー板のふらつき具合を自由に変える事ができるようにした。まったくふらつかない、シーソー板を固定した状態ではすぐに餌付けを行うことができた。何匹ものクマネズミが中に入ってパンを食べている。

その後、調整ネジを1目盛ずらしてほんの少しふらつく程度でもうまくいったのだが、2目盛ずらすと全く入らなくなった。少しのふらつき具合の変化を感知して、危険だと判断したようだ。

クマネズミは樹上生活を行うため、高所を平気で行動する。枝のようにしなって、徐々に足元が下がることは気にしないが、急に足元が不安定になると落下する恐れがある。体重の重いクマネズミは落下した場合死ぬ可能性が高いので、急に足場が不安定になることを嫌うのだろうと思われる。

また、足の裏のヒダヒダは、このような場合にしっかりと体を維持するのに十分その役割を果たしているのだろう。そう考えると、ドブネズミは木に登ることは得意ではないので、足元が急に不安定になるのを気にしないかもしれない。とにかく、このアイデアではクマネズミの捕獲はできないという結論に達した。

※本記事は、2020年6月刊行の書籍『捕獲具開発と驚くべきネズミの習性』(幻冬舎ルネッサンス新社)より一部を抜粋し、再編集したものです。