第1部 捕獲具開発

3章 仕掛けとその効果

4 餌付け機能を備えた1匹取りの仕掛け


A 捕獲例1 ドブネズミの場合

先に来た個体が、巣から最も遠い捕獲具、つまり左下の捕獲具に入ろうとしている姿が写っていて、奥には少し小さめの個体が顔を出している。

水揚げされた水産物の加工作業は夕方から始まり翌日の早朝に終わるので、点検とパンの交換は閉店前の9時頃に行っていた。

食パンは小魚よりもよほどおいしかったのだろう。捕獲具の中のパンがなくなっても、同じ場所に定期的に運んでくれるパンを楽しみに待っていたことになる。

私はこの時に思った。

餌付けによる捕獲法は卑怯な方法だと。

数日後には捕獲されて殺されるかもしれないのに頼りにして待っている。定期的に給料を運んでくれるお父さんが家族に対して急にひどい仕打ちをするのと同じではないか? 捕獲したネズミを間近で観察する機会が増えていたこともあり、少し後ろめたさを感じた。

12月29日の点検後正月休みに入ったので、ロックモードに切り替えて捕獲する日を1月6日に予定し、それぞれの捕獲具にはパンの小片を30個入れた。

1月6日、全ての捕獲具をロックモードに切り替えてパンを補充した。すぐに集まって来ると思っていたので、設置後45分毎に経過観察を行った。

真っ先に捕獲が確認されたのは、巣近くに設置した7箱で、4箱と3箱を2段に積み上げたうちの右上の箱に、捕獲したネズミのうち最も軽い個体(75g)が入っていてこちらの方をじっと見ていた(写真1)。暴れている様子はない。

[写真1]2段に積み上げた捕獲具の右上の箱に捕獲されたネズミ

巣から最も近いのは右下の箱である。一番初めに来たのだから、巣から最も近い右下の箱に入れば良いのに何故わざわざ上の箱に入ったのであろう? これも不思議である。

餌付け期間が長かったので、個々のネズミの入る箱が決まっていたことも考えられた。その後時間が経過しても捕獲が認められないので、捕まったネズミはそのままにして翌日の朝に回収する事にした。

捕まったネズミがおとなしくしていたので、捕獲具の危険性が他のネズミに伝わらないと思ったからだ。前回パンを補充してから1週間経過していたので、食べつくした後、待っていても来ない定期便を諦めてほかの場所で餌を採るようになっていたのだろう。

水産加工をする店舗にはシャッターがそれぞれに付いていて、作業終了時にはすべて閉められる。

捕獲した個体の体重はそれぞれ300、170、150、135、120、 85、75gで1頭が特に大きかった。うち1頭(120g)は死んだ状態で捕獲された。ストレスによって死んだのだと考えると、環境に適応する能力に個体差があり、その幅が大きいことがわかる。

大きい個体2頭はシャッターの外で捕獲され、他の5頭はすべてシャッターの中で捕獲された。

点検の際に、店舗外に設置した捕獲具のそばで猫が居座っているのを目撃した。小さい子ネズミを捕まえて食べたことがあるので、居座っているのではないかと想像した。

シャッターの外は猫がいる危険区域である。

大きい2頭の個体はいつも危険区域でパンを食べていたのだろうか? もしそうだとすると安全に餌が取れる場所を小さい個体に譲り、あえて、危険区域で餌を探していたことになる。

捕獲したネズミたちが家族関係にあり、外で捕獲された大きい2頭が親であることを証明することは困難だが、もしそうだとすると、親は2~3回の出産で生まれた子と共同生活を行っていて、子たちは常に親の庇護のもとにあったことになる。

クマネズミの親と変わらないくらい大きく育った個体まで、まだ子ども扱いされて安全な所で餌を探している。

※本記事は、2020年6月刊行の書籍『捕獲具開発と驚くべきネズミの習性』(幻冬舎ルネッサンス新社)より一部を抜粋し、再編集したものです。