1章 ハツカネズミの前期捕獲とその観察結果

2 鶏舎での捕獲と観察結果

観察記録

後日、外国の研究者の報告を読んでいて分かったのだが、ハツカネズミの雄は尿で縄張りをマーキングするそうだ。本来多くの場所に少量の尿でマーキングするのだが、力のある個体ほどそのエリアが広く、数は多い。雌はというと、マーキングの数は雄に比べて少ないが量が多い。まさしくこれだと思った。

しかし、このマーキングの行為は、3~4日に一度、定期的に放り込まれるパンの小片が自分の物であると、周りにいるネズミたちに主張するための行為だ。この黒い大きい雌が周囲にいるはずの家族集団の一員なら仲良く一緒に食べるはずで、マーキングは必要ない。マーキングは競合する相手に対して行う行為のはずなので、よそ者の可能性が高いということである。

これ以降、前期、後期の捕獲を通じて、餌付けの目的でしばらく食べさせることが数回あったが、多量の尿によるマーキングは観察できなかった。特殊な例であって、餌場荒らしを行っている単独行動ということになる。一体どこから来たのだろう。

3月26日。飼料粉砕機付近に設置した連続捕獲具3台の中のうち1台の中のパンがすべて完食されていた。餌付けができたのだ。中に尿と糞は見られなかった。すべての捕獲具をロックモードに切り替えて捕獲を開始した。

餌付けに15日かかったことになるが、この15日という期間は、捕獲する者を不安にさせるには十分な長さである。がっかりすると同時に撤退の言葉がちらつき始める長さと言いかえることができる。この場所での捕獲までに二度ハツカネズミを捕獲したことがあるのだが、いずれも設置してすぐに捕獲できていた。もちろん仕掛けの構造が違っていたのだが、今回に限って何故餌付けまでに15日も必要だったのか、理由が分からなかった。

3月27日。1台に2匹を捕獲し、連続捕獲の仕掛けが機能していることを確認した。後のことを考えて小さい冷凍保存庫を購入し、これ以降は捕獲されたネズミを保存することにした。したがって、それ以前に捕獲した大きめの個体1頭を含む4頭は解析できていない。この4頭は不明4頭として処理した。

4月3日。11gの個体が仕切りに使っていた画用紙をかじり、15mmの穴をあけて窮屈そうに行き来していた。ここで、入り口の高さを20mmにしていたが、これでは狭いことに気が付き、入り口の高さ30mmの物を作ることにした。

4月15日。2台にそれぞれ1頭(8.3g♂)、3頭(6.2g♂,7.3g♂,7.8g♂)の雄ばかりを捕獲した。事務所に連れ帰った時にピーやチーという鳴き声を聞いた。どのような状況でハツカネズミは鳴くのだろうか。

4月18日。10.2gの黒い雄(写真1)を通常の毛色の個体と一緒に捕獲した。以前見た黒い個体より小さいが、それにしても何故黒い個体が出現したのだろう。

[写真1]体全体が黒いのではなく腹部は白かった