淳の妊娠

朝食と淳の昼食を作って出勤する。親父と太洋にそれでもスケジュールを伝える。父親は室町姓になることに引っ掛かった。太洋は、週末にはサーフィンで親離れしかかっている、鷹原は太洋にと言われると、ちょっと待て待て、次男坊で気楽に行こうと思っているのに、兄ちゃんの巻き添えな、零細企業の跡継ぎなんか嫁さんに来てくれる女はいないよ、真っ平ごめんだ。

へえ……室町には歳のこと、鷹原には姓のこと。八汐が些末に思うことで異議が出る。

夜の時間、会話が弾まないのが辛くて、産科で貰った本を適当に選んで読んでやる。高齢出産の体験談を集めたもの。いやだったら映画を観よう。中味より八汐くんの声聴いていたいから読んで。四十八で初産の人がいる! こういうの、男が読むと猥褻だよ。女の人は平気で読めるの? 男の方はどうすればいいか、勉強したいけれど、こんな……甘っちょろくて……高齢対象にしちゃふざけてる。

ページを繰るごとに不真面目なようなコメントが挟まれる。淳もとうとう笑って、もういい、なんだかわかってきた。

「淳さん、僕、背伸びして小さい車買おうと思う。通院にも、淳さんの仕事にも役に立つよ。絶対。レジャーに買うより実用に。ね。いいアイデアだろ?」

「……うん……でも、わたしが仕事どうしようか……八汐くんが残業なんかするようじゃ……絵を描いててくれるのがいいのに……」

次の朝、淳は台所にいて、くっつき回る八汐をサンルームに追いやる。切り替えができない。絵を忘れていた。

「世間が放っとかないっていうことね」

姓を決めないと婚姻届が出せない。

「わたしは拘らない」

鷹原に決めた紙切れが木工所と、郵便で室町と、遣り取りされた。