序章

法螺吹きM、汚名返上

広島市の上空で原爆が投下されて炸裂する瞬間を現実に自分の眼で見た経験がある少年たちの殆どは、強烈な熱線を浴びて死んだことだろう。

さらにマリリン・モンローの実物を手の届く至近距離で見て、本人について歩いたという日本人の少年も、まずはいないと思える。

Mは、これまで仲間内で何度か原爆が落ちてくるのを見たことや、マリリン・モンローの実物を見たことがあると話したが、あり得ない、信じられないと言って、みんな興味深く真剣に聞く耳はもってくれなかった。

へたな冗談だとか妄想だとして耳を貸そうともしないし、噓っぱちな話だと思われて、バッカじゃなかろうかと揶揄されるのが落ちで、まともに相手にしてくれる仲間はいなかった。

新聞記事で、Mは原爆を二回受けたが生きているという人のことは読んだことがあった。そのお方は、出張で広島に降り立ったその朝、原爆の洗礼を受けて、命からがら帰り着いた長崎で、再度、原爆を受けたが、いまだ健在であるということが報道されていたのは覚えている。

不運なのか、幸運なのか……。