第1章 オーバー30歳(over thirty)のクライシス

②オーバー30歳の可能性

日常生活のささいな苛立ち事

30代のビジネスパーソンが、仕事について、人生について、どのような悩みを抱えながら生きているかを、私の経験も交えて考えてきました。ここからは、もう少し身近なところへ視点を移して、30代の日常生活のクライシスを考えてみたいと思います。

では、ひとつ質問です。

「あなたは日々の生活の中で、嫌だな、とか、面倒だな、と感じることはありますか」

「ありません」と速攻で答えた方、まさかそんな人はいませんね。真面目に、それなりに日常を送っていれば、職場には嫌な上司のひとりやふたり、さらには理解できない言動の部下がいて当然です。その上、働き方改革で残業はするなと言われるが、仕事は減らず、詰まるところ、ほにゃらら残業している方がいるはずです。

この様に30代後半になれば、人間関係の悩み、部下の指導に苦戦している、ノルマなど仕事上の負担が重くのしかかっている方も多いのではないでしょう。一般にこのような出来事が「ストレス」と呼ばれることはご存じだと思います。

厚生労働省が5年ごとに働く人々を対象に行っている調査によると、仕事や職業生活でストレスを感じていると回答している人は、1990年以降は60%前後を推移しています。年代別にみると、30、40代は65%前後に達しており、働き盛り世代のストレスは男女ともにもっとも高くなっています。特に人間関係における悩みは調査が始まって以来、つねに第一位です。

そこで、ストレスが原因で不調をきたす人を未然に防ごうと、平成27年から職場におけるメンタルヘルスの取り組みとして、ストレスチェックが始まっています。皆さんは職場で経験されたでしょうか。一方、家庭生活においては、30代は、子どもができ家族は増えて楽しい生活を送っている年代です。あくまでも一般論です。

しかし現実には、家庭生活の中にもストレスは山積みです。夫婦共働きであれば、育休明けから子どもを通わせる保育所の抽選に生死がかかっています。保育所も運良く決まり、仕事を始められたとしても、例えば、子どもが熱を出せば呼び出しがかかり、仕事を中断して保育所に駆けつけなければなりません。

多くの家庭では母親の役割になっていて、「いつも私が行くのね」と小さな愚痴が積もり積もってきている仲間をたくさん見てきました。職場においては昇進、プライベートでは結婚や出産に子育てなど、30代で経験する人生のライフイベントは、喜ばしいことばかりですが、同時にストレスにもなり得ます。日々の仕事やプライベートでも、真摯に向き合えば向き合うほど負担に感じることは増えてしまいます。

バタバタと毎日が過ぎているのではないでしょうか。イライラして周囲の人に思わず八つ当たりしたくなる気持ちや、もう少しゆっくり眠りたいと思う気持ちも、大好きなことだけをやっていたい気持ちだって分かります。そんな日常の葛藤の中で、今、この本を読んで下さっているあなた、ストレスさえなくなればこころ穏やかに過ごせるのに、と思っていませんか。

ところで、この本に興味を持って下さったあなたの心は健康でしょうか。日頃から、「心が健康」か、なんて考えたことはない、という方がほとんどかも知れませんね。それでは、オーバー30の皆さんが、人生を歩む過程において直面するクライシスや、日々の暮らしの中で感じる苛立ち事は避けられなくても、まずは、心が健康であるとはどういう状態かを正しく理解して、心の健康を予防するという考え方について、一緒に考えてみましょう。ストレスを味方に付けて、30代から40代へ、残りおよそ3分の2の人生を精神的に健康に生き抜く知恵を手に入れましょう。

サプリメント・「リセット&リスタート」という前向きな生き方

最近「リセット&リスタート」という言葉をよく耳にします。もとはといえばコンピュータがフリーズして動かなくなったときに、リセット(置き換え)操作によって元の状態に戻して、リスタート(再起動)すれば機能が回復するという意味に使います。

それを私たちの日常生活や人生の過程に喩えると、ストレスなどによって行き詰まったりした場合、一旦その困った状態を以前の状態に戻してから、やり直せば(再出発すれば)よい、という教えになります。私たちの過去を拭い去ったり変えたりはできませんが、迷いや悩みをいつまでも引きずらないように、一度以前の自分をリセットし、新たな気持ちでリスタートするという心構えは、ポジティブな生き方として大切です。

様々なクライシスを経験するオーバー30にとって、身に付けておきたい心構えだと思います。ストレスで疲れた心身を休めて英気を養い、心機一転本来の自分を取り戻して、再スタートしませんか。きっと「リセット&リスタート」によって、新たなチャレンジ精神が芽生え、今までと違った前向きな生き方を可能にする力が湧いてくるはずです。人生に正解はないのですから。

※本記事は、2020年3月刊行の書籍『Over Thirty クライシス』(幻冬舎メディアコンサルティング)より一部を抜粋し、再編集したものです。