劇症型地球温暖化の未来シナリオ

中東では、「人口の急増と利用可能な水の減少により、いまも存在するようなさまざまな敵対感情がいたるところで激化していく。イスラエルとパレスチナの和平合意に向けた試みは、結局何も決まらぬまま放棄される。

なぜなら、水の共有という根本問題は畢竟(ひっきょう)、未来永劫解決されることがないという集団的理解に達するからであり、また水の利用権をめぐって、イスラエルとヨルダンのあいだで戦争にいたる状況すら考えうる。イラク、シリア、トルコの三国は、チグリス・ユーフラテス川の源流をトルコ側が支配していることをめぐって激化の一途をたどる紛争へと(はま)り込んでいく。

湾岸諸国は海水の淡水化プラントのための原子力発電所を急速に拡大させるとともに、略奪行為を受けないための保険として、核兵器の地域拡散に走っていく。」

アジアについても、「ヒマラヤ山脈とチベット高原に端を発するアジアのすべての河川(インダス、ガンジス、ブラマプトラ、サルウィン、メコン、長江)は当初、氷河や積雪が解けることから数十年にわたり洪水に見舞われるけれど、解けるべき氷河と積雪が消滅したあとは、特に夏場の数か月間、水量の激減に苦しむことになる。

その結果、インド亜大陸では食料不足と水をめぐる国境紛争が発生し、それぞれに核兵器を保有するインドとパキスタンは、インダス川の水をめぐって戦争の危機に直面する(この地球上で灌漑農地が最も連続して広がる地域は、パキスタン領内のインダス川下流域だが、インダス川とその支流の水源はインド領内にあるのだ)。インドの民主主義体制は、こうした緊急事態の中で崩壊するかもしれない。」

中国については、「流れる河川の水量が低下すると、その影響は華南一帯の食料生産だけでなく、三峡ダムのような中国の野心的水利発電プロジェクトにも及ぶことになる。北東モンスーンが弱まり、華北平原の穀物生産が減少し、また沿岸の工業地帯が海水面の上昇と強まる暴風雨にさらされて、深刻な打撃を受ける。

中国の独裁政権は、ぐらついた政権基盤をうち固めるため、大衆の怒りを外に向けようとし、台湾、日本、さらにはアメリカに対してまで非難の言葉を浴びせるかもしれない。」としています。