第1章 オーバー30歳(over thirty)のクライシス

30歳の壁は存在するのか

アイドルではなくても、新入社員という存在は、アイドルなみにちやほやしてもらえます。ただし1年未満という期限付きですが。それから数年が過ぎ、社会の荒波にもまれ、気がつけばアラサー。

カウントダウンははじまり、29歳から30歳へ、ひとつ歳を重ねるだけなのに、確実に20代とは何かが違うのです。読者の皆さんすべてが同じ感覚を覚えたかどうかは分かりませんが、私は30歳の壁をとても大きく感じました。

先日、卒業生と話をしていて、「早いね、もう30になる?」と尋ねたら、「いいえ、まだ29です」と訂正されてしまいました。私だけじゃなかったの。やはり心のどこかで、30歳になる現実を意識しているのかなと思ってしまいました。

性差はあるかも知れません。男性は、年齢を重ねることそのものが社会的意味を持ち始めますから、30歳の壁はあまり意識せずに通り過ぎることができるのではないでしょうか。

30歳と言えば、社会に出て10年前後が過ぎている頃でしょう。後輩もできて、仕事の厳しさも面白さも分かりはじめてきている頃だと思います。

私が30歳になるということに大きな壁を感じた理由は、ふたつありました。ひとつは、30代に相応しい仕事のスキルを身に付けているだろうか、もう若さだけで、ちやほやされる年齢を優に超えていることへの焦りと不安。

ふたつめには、結婚していない30代女性という自己否定像を勝手に作り上げていることでした。今では、平均初婚年齢も20代後半になり30歳で結婚していなくても特異な印象は持たれません。その後の出産や子育てのことを考えると結婚は早いほうが良いのでしょうが、女性の社会進出は進み、人生設計をする際の選択肢は増えているのが現実です。

まだ結婚しないの?

ならば、なぜ30歳の壁を意識するの?と疑問を持たれた方、正しい理解です。発端は私のあるエピソードにありました。

もう随分と昔の話になりましたが、今でもその光景は鮮明に覚えています。今では考えられないことですが、入社試験最終面接で、「結婚したら、あなたは仕事を続けますか、辞めますか」と尋ねられました。私はなんと、所謂、面接マニュアルに反して、「はい、3年以内に結婚して寿退社が理想です」と答えたのです。面接員たちの失笑がかすかに聞こえました。

「あ、絶対に落ちたな」と思った面接でしたが、晴れて合格の通知を頂きました。面接員のあの失笑は、こいつは3年以内には結婚できないという確信だったのかも知れません。

実際には3年以内どころか、30歳のときには結婚もせず、堂々と会社にお世話になっていたのですから、寿退社は夢のまた夢、笑ってごまかすしかありません。まだ結婚しないの? って言われなくなったらピンチだよ、そんな時代でした。今なら、セクシャルハラスメントになるのでしょう。

ともあれ内心は、30代になり、もう結婚できないかなと焦りつつも、一方で仕事が面白くなってきた年齢でもありました。当時、結婚には全くご縁はなかったのですが、仕事に関しては、もう辞めようかな、もう辞めようかな、と思う度に新しいプロジェクトのメンバーに声をかけて頂くという運に恵まれました。だからといって、30代に相応しいスキルを身に付けていたとは、とても思えなかったので、アンビヴァレントな自分に嫌気がさしていたのも事実です。

結婚に関する理想と現実における葛藤は、働く女性にとって大変ストレスフルです。仕事か結婚か、それとも仕事も結婚も選択するのか。さらに結婚すれば、その後に出産、子育てが待っています。あ、言っておきますが、結婚、出産、子育ては女性の問題だけではありませんよ。

私とは対照的に、30歳の壁を感じずに通り過ぎたとか、30代になってからの方がむしろ生きやすくなったという方がいらっしゃるようですが、どうしてそう思えたのでしょう。目の前に立ちはだかる現実で身体も心も、曲がり角の年齢のはずですが、本当に大丈夫ですか。

※本記事は、2020年3月刊行の書籍『Over Thirty クライシス』(幻冬舎ルネッサンス新社)より一部を抜粋し、再編集したものです。