第1章 オーバー30歳(over thirty)のクライシス

ガラスの天井

30歳という年齢が、「もう、」なのか、「まだ、」なのか、30歳の壁を感じ取るか否かは人それぞれで良いと思います。もしかしたら数字の問題だけでなく、先ほども述べたように性差に一因があるかも知れません。男女の格差はなくなったとは言え、日本という国においては、特に女性に若さを求める風潮があり、これらは一昔前とあまり変わらないように感じる場面は職場においても多々あるように思います。

男女雇用機会均等法が施行されてすでに30年あまりが過ぎようとしていますが、女性にはガラスの天井がある、という言葉通り、ほど遠い現実があります。2018年3月期決算の東京商工リサーチの調査によると、上場企業の役員の女性比率は3.8%、女性役員ゼロの企業が全体の65.8%を占めていました。

日本のビジネス社会は男性優位であることは明らかなようです。もちろん、平等に女性の数を増やせばよいという論理ではありません。性差の特性を活かした社会になることへの理解が進むことが、必要だと思います。

2019年4月東京大学入学式での上野千鶴子氏の祝辞が話題になりました。冒頭、某医科大学の不正入試問題を一例に取り、平等だと信じて疑わなかった入試でさえ、性差別は暗黙裡に行われています、という衝撃的な内容で始まりました。社会に出ればもっとあからさまな差別が横行している現実を、数々の統計を例に上げて、東大ブランドを、今まさに勝ち取って入学してきた彼ら彼女たちに突きつけました。

20歳前後の新入生たちは、どのような感想を持ったのでしょう。刺激的な数々の内容の中でも、これからの日本を牽引するであろうエリートの卵たちにむけた、はなむけの言葉として、もっとも私の心が震えたメッセージは以下の一節です。

あなたたちのがんばりを、どうぞ自分が勝ち抜くためだけに使わないで下さい。恵まれた環境と恵まれた能力とを、恵まれない人々を貶めるためにではなく、そういう人々を助けるために使って下さい。そして強がらず、自分の弱さを認め、支え合って生きて下さい。

平成31年度(2019年度) 東京大学入学式祝辞、東京大学HP

この祝辞には賛否両論あるようですが、背景には、この世の中を生きていく上で、性別や強者弱者というくくりではなく、多様性を重んじる思考を身に付けて欲しいという願いが込められていることを忘れてはいけません。

先にふれたように、ビジネスの世界でも差別という名の現実がオーバー30を待っています。30代は、結婚していれば女性は出産をして育児の真っ只中です。育児休業をとるのは当然の権利ですが、それには、ビジネスの世界で男性よりも昇進は遅れてしまうリスクが伴います。

同様に某医科大学の入試においても、女性が選抜されにくい理由に、医師になってから女性は出産や育児のために、職場を離れる期間が生じるため周囲に迷惑がかかるからだと報道されていました。どこか腑に落ちないのは私だけでしょうか。

上野氏は、フェミニズムは決して女性が男性のように振る舞いたいなどという思想ではありません。弱者が弱者のままで尊敬されることを求める思想です、と述べています。この言葉に心通わせることのできる男性が増えて、30代が仕事か家庭かという二者選択を迫られる世代にならないことを、女性のひとりとして望んでいます。
 

※本記事は、2020年3月刊行の書籍『Over Thirty クライシス』(幻冬舎ルネッサンス新社)より一部を抜粋し、再編集したものです。