別れとリハビリテーション

夏の暑い日、長野から吉越が来てくれた。彼には珍しく女性を伴っていた。

「山梨も盆地のせいか暑いなー。友達の山下博子さんだ」

どちらの顔も見ず、ただぶっきらぼうに紹介された。

「はじめまして。博子といいます」

やや小柄ではあったが話し言葉ははっきりとした声質で、聡明な面立ちであった。

「伊庭です。こいつが女性を連れてくるなんて初めてです」

「伊庭さんのことはよく話してくれるから、今日は楽しみにして来ました」

一年ほど前に知り合ったことや、薬剤師として家の近くの薬局に勤めていることなどを話してくれた。その話の中で吉越に好意を抱いていることを随所で知ることができ、爽やかな恋心を感じ羨ましいとも思った。

その夜は吉越を真ん中に川の字で眠りにつこうとしたが、ベッドの幅が狭くて手を殆ど動かせなかったのが苦痛であった。それでも高校時代を含め二人の思い出を話すには時間がまるで足りなかった。時々博子さんの明るい笑い声が天井に届いていた。

「二年生のとき、こんなことがあったんですよ」

「えーなんだろう」

「パトカーの件、吉越お前もう話したか」

「いやー俺はなんにも話してねーよ」

「どんなこと、どんなこと」

早く聞いてみたい彼女の思いが手に取るように感じられた。

「渋谷から三軒茶屋の方に向かって三人で歩いていたら、ちょうど大橋のデパートの前で何か大声で話すのが聞こえて、行ってみよう行ってみようと走ってその場に着くと、四人の男が若い男に殴りかかっているとこだった。彼女らしい女性が身をすくめながら『やめてー』と叫んでいたんだ。

俺らが行って止めに入ったらいきなり俺と祢津が殴られて、酔っていたせいか滅茶苦茶に殴りかかってきたから、自分たちもやらなきゃならないという気になって向かっていったんだけど……そうそう、かなり図体のでかいのが二人いて結構殴られたんですよ」

「三人ともやられたの?」

「とにかくこのままじゃ駄目だと判断し、近くに棒っきれでもないかと探したら、レンガが無造作に置かれていたのでそれを拾いに行ったら、突然パトカーの音がしてあっという間にすぐ近くまで来たんだ。どうしてレンガだったのか覚えてないんだけど。パトカーの中から二人が降り『お前ら何やってるんだ』と睨みつけて、用があればいつでも鉄砲を出すぞという気概が伝わってきたんで、もうみんな戦意は喪失したんだよな、吉越」

「よく覚えてねーなー」

「そういえばこんなこともあったんですよ」

「えーどんなこと、いつのこと」

せかすように彼女は聞いてきた。

「一年の冬だったか八時頃、合宿所を抜けて、歩いて吉越の下宿していた豪徳寺まで行ったんですよ」

下宿に着いて吉越が残した夕ご飯を食べた後、いつになく不機嫌だった彼にふと愚痴った。

「今回の試合は散々だったよ。どうも俺は波があるんだよなー」

すると突然、

「言い訳なんかする必要ねーよ。負けたら負けたって言えばいいじゃん」