別れとリハビリテーション

今まで抱えてきた不安をよそに、入れることは既に決まっていたようだった。天井の高い研究室に通されたとき、「この机を使ってください」医局長にあっさり言われた。

かなり広い室内で九つの机がコの字型に並べられ、机の奥に二メートルほどの高さの木造りの本立てが備えられ、中には分厚い医学書が並んでいた。洋書が半分以上を占めている棚もありファイルや辞書も積まれていた。

白衣を着た三人の医師が昼食を摂っており、離れた場所から興奮気味に話し合っていた。手術に備えて脳のどこを切除するか意見を交わしているようであった。一人は蕎麦を食べかけたが机に上がり本を取ろうとしていた。もう一人は横文字の表紙の本を読みながら「ここだここだ」と言っていた。

さらにもう一人の医師が「私はその選択ではない方がいいと思うんですよ」と弁当を机の上に置いた。挨拶もそこそこに長兄とその場を去った。なんともいえない気分だった。兄も黙っていた。

自分と同じく、こんなところに来てなんとかなるのかなと思っているような気がした。その夜、熱を出した。車の中で咳がなかなか止まらず寒さも感じていた。夕食にも殆ど口をつけず布団の中に入ったが、寒気は続いていた。九時頃体温を測ってみると三十九度近く、痰も切れずに悪化していくようであった。

長兄は心配して病院に電話をかけていた。知り合いの医師のようで、言葉は友達に話すような口調であった。