朝、付き添いのおばさんが、

「このところ毎朝元気がいいづらねー」

「いやー、みっともなくて恥ずかしいんだよね」

「若いから無理もねえさよー」

慰めるような言葉をかけてくれた。週二回入れてもらえるハバートタンクと呼ばれる風呂のときも、看護師さんや若い看護助手が中心で介助をしてもらったが、下半身が気になり恥ずかしくてたまらなかった。

なかなか眠れない夜が続くと苦痛に変わっていった。怪我をする前までは同じような悩みに対し自分自身で処理することはできたが、今の自分にはどうすることもできなく、ただただ悶々とする日々を送るしかなかった。

この悩みはいったいいつまで続くのだろうか。

夏少し前のことだ。石田君が声をかけてくれた。

「伊庭さん、天気いいから散歩しない? 笛吹川の方まで行ってみようよ」

「嬉しいけど大変だよ」

「大丈夫、大丈夫」

交通事故でリハビリの目的で入院していた彼は自分よりも一歳年下だった。事故のせいで彼の左足は二センチほど短く、少し脚を引きずるようにして松葉杖で歩いていた。

「笛吹川まではかなり遠いよ。車椅子を押して大丈夫かなー」

「大丈夫だよ、伊庭さん」

「そうだね、天気もいいし行ってみようか」

病院を出て少し歩くと周りは一面の桃畑で、一人のおじさんが採れたてと思えるやや青みがかった桃を、畳一枚ほどの木でできたテーブルの上に干していた。

「何してるんですか」

「陽に当てているんだよ、しばらくすると甘みが増して色も良くなる。二人とも若いのに事故でも遭ったのか」

「そうなんです。彼は東京から俺は新潟から。二人とも事故で」

「ほうけーそれは大変だったなー。もう長いの?」

「俺は一年半近く、こっちは半年」