謎が謎を呼ぶ、長編ファンタジー小説、前編。
就職を機に上京した橘子は良き先輩社員に恵まれ、
消息不明だった幼馴染・清躬との再会も果たす。
一方、清躬の戀人・紀理子は忽然と姿を消す。
そして、橘子も謎の屋敷の者たちによって危機に陥る。
「希望は蜘蛛の糸に過ぎない」と言われた橘子だったが――
就職を機に上京した橘子は良き先輩社員に恵まれ、消息不明だった幼馴染・清躬との再会も果たす。一方、清躬の戀人・紀理子は忽然と姿を消す。そして、橘子も謎の屋敷の者たちによって危機に陥る。「希望は蜘蛛の糸に過ぎない」と言われた橘子だったが――。山本杜紫樹が描く、謎が謎を呼ぶ、長編ファンタジー小説『相生 上』より一部を抜粋してご紹介します。
ちょっと清躬さんに事情が─
橘子は警戒しながら、相手の女性を見た。最初は感じのよい女性に見えたけど……いま警戒心を持って見ても、やっぱりわるい女性には感じられない。そう見えるひと程、人を欺くことに長けているかもしれないから注意は必要だが、橘子の本心としてもそういう女性に見たくなかった。
嫌いやなことを考える自分も嫌になる。かの女が本当に清躬くんとつきあっている証據みたいなのがあれば安心できるんだけど。
「あ、実は─」
棟方さんが不意に言葉を挟んだ。沈黙の空白は橘子によくない想像と臆測を広げさせるばかりであったので、相手の発言で橘子はちょっとほっとした。
「スリーショットなら、あるんです」
見ると、スマホを手にしている。
「スリーショット?」
橘子は声のトーンが高くなった。棟方さんはスマホに指を当てて操作している。
「え、ええ。あの、これ」
そう言って、スマホを橘子の前に差し出す。
「あ、はい」
受け取ってディスプレイを見ると、写真の画像だった。
人物が三人いる。
慥かにスリーショットだ。一人が男で、二人は女性だ。女性に挟まれているまんなかの男性は─清躬くんだ。
念のため、画像を拡大する。
清躬の顔がはっきりわかった。
これは慥かに、清躬くんだ。笑顔でいい表情。流石に二十歳を過ぎてりっぱな成人男性になったという感じだ。高校一年の時に会った清躬は、自分より年少の感じがするくらいまだ小学校時代のおもかげを残していたが、それは同級生と比較してそう感じたのだ。それに写真で見るからおとなっぽくおもうので、実際に会うと、昔とあまりかわっていないと感じるかもしれない。そうおもう程意外にかわっていなかったのがおどろきでもあり、安堵もした。残念なことになっていなくて、よかった。裏切られなかった。本当によかった。
清躬の右横の女性が棟方さんであることもすぐにわかった。穏やかな笑顔だ。整ったきれいな顔で、やっぱり清躬とつりあっている。問題は左の女性だ。このひともきれいでわかいが、棟方さんよりは年長に見える。
【相生 上 登場人物】
檍原橘子 20歳。地方の短大を出て就職で上京。
檍原清躬 20歳。橘子の幼馴染。特殊な絵の才能の持ち主。
清躬の父
清躬の母
棟方紀理子 20歳。大学生。清躬の戀こい人びとだが、別離した。
津島さん棟方家のメイド。
小鳥井和華子 橘子、清躬の小学校時代の憬あこがれのおねえさん。
和歌木先生 清躬の小学校四年生の時の担任の先生。
杵島紗依里 一時期、清躬の親がわりとなった女性。
鳥上海祢子 橘子の職場の先輩(教育指導係)。
緋之川鐵仁 橘子の職場の先輩。
松柏さん 緋之川の戀人。
寮監さん夫妻 橘子の住む寮の管理人夫妻。
会社の健康管理室の看護師
小稲羽鳴海(ナルちゃん)9歳。清躬となかよしの利発な子。
小稲羽梓紗 鳴海の母。同居はしていないが、神麗守の母でもある。
和邇青年の想い人 梓紗の母。和邇の青年時代に戀い憬れたひと。
神麗守(小稲羽神陽農) 15歳。和邇家で養育されている。
紅麗緒 15歳。神麗守と一緒にくらしている。
和邇のおじさん 資産家。東京に大きな屋敷を構えている。
根雨詩真音(ネマ) 20歳。大学生。彪のグループメンバー。詩真音の母和邇家の家政を担当。
隠綺梛藝佐 23歳。和邇家で、神麗守、紅麗緒の養育を担当。梛藝佐の姉医大を出て、病院勤務。和邇家の主治医。
和多のおじさん、おばさん 和邇の元部下。建設会社などを経営。
楠石のおじさん、おばさん 和邇家の車まわりや庭の手入れを担当。
稲倉のおじさん、おばさん 和邇家の賄を担当。
香納美(ノカ) 20歳。稲倉夫妻の子。大学生。彪のグループメンバー。
柘植くん 香納美の戀人。彪のグループメンバー。
神上彪 詩真音から「にいさん」と呼ばれている。
桁木紡羽 彪のグループメンバー。伝説の武道家の娘。
烏栖埜美箏 彪のグループメンバー。扮装の名人。