セットリストNo.1(第一章)

9 I Need You–Maurics White

店の前まで、手をつないで歩いてきた2人は、フーピーの中へ入っていく。そこら中にある商品の多くがインポート、いわゆる輸入品。他ではあまり見かけたことがない、というのも当たり前かな。

ここに置いてある品物は、このお店の社長さんが直接、現地へ行って買い付けてくるらしい。中には、かなりひねりを利かせたジョークな品物が、堂々と存在してたりして『マジかよ』って感じで、笑いが止まらなくなったことも、一度や二度じゃない。

そんな場所だから、普段目にすることのないようなものが、たくさんある。ヒマなときにでも、ちょこっと寄ってみれば、1時間ぐらいなら余裕で潰せる。けれど、あまり広いお店じゃないから、それ以上の時間ここにいると飽きるかもね。

今夜の翔一は、香子を連れておもちゃを、見に来たわけじゃあない。この店には、輸入品のおもちゃにまぎれて喫煙器具も、それとなく置いてある。

パイプや、ローリングペーパー(煙草の葉を、紙で巻いて吸うときに使う巻紙)なんかも置いてある。パイプ類についていえばオーナー自ら現地に行って、買い付ける重要な品物で、この店に並んでいるそれ以外の商品のほとんどは、ついでに仕入れてくる。といううわさだ。

オーナーさんの、苦労とセンスが指し示すとおり、珍しいスタイルの物から、正統派デザインのパイプまで。スペースいっぱいに、ディスプレイされている。マリファナビギナーズは、たいていパイプに凝る(自分で、作っちゃったりもする)。

フーピーは、そういう目的で来る連中と、六本木あたりで、GETした女の子のちょっと固めの気分をほぐしがてら、『ついでに体のほうも、ほぐれやすくなってくんないかなぁ』と、まぁ、そんなことを考えながら、店にあるウィンドウや鏡なんかで常に自分の笑顔チェックをさりげなくやってるような奴らが多い。

この店を訪れる人間は、このどちらかだろうと言ってもいい。お店のエントランスから、奥に向かって歩いてるときに、いつも思うことがある。

『ここにある乱雑な印象は、来るたび自分の記憶領域に貼りついてくる。営業を目的とした場所で、強い記憶をゲストに持たせるのは、重要な戦略の一つ。それを狙って、ディスプレイされているのかも……まさかね』

そんなことを考えながら、視線を店内に1周させた。ここに来る目的は、いつもと同じ。

なぜか、一番深い場所に鎮座しているガラスケース。その中にある。翔一の後を、ついて歩いていた香子は視線を他の興味に向けていたから、止まった彼の体に、手をぶつけた。