ガラスケースの前で立ち止まった翔一は、香子に振り返り、リラックスした表情で、言った。

「面白い店でしょ」

彼女は、今2人が歩いて来たお店の中を、もう一度体をひねって見返して、再び翔一に視線を戻すと、一呼吸あけて答えた。

「今迄に、一度も入った経験がないタイプのお店ね。何処かで、似た雰囲気のお店を見かけたことはあったけど、中に入ったのは初めて。感想はねぇ、お店に入って、すぐ思った事なんだけど、うーんすごく強いイメージ。それは一言でいうとサイケ(デリック)・アンド・アシッドっていう感じだったかなぁ? 細かい品物が多いから、なんか必要なものを探すために、ここに来たとしたら、探し出す迄に目が疲れちゃいそう。そんな感じがしたわ」

今夜、出逢ったときから少しも変わらない口調で、彼女はそう言ったが、翔一は、彼女が使った言葉の中に、アシッド(LSDという強力な作用を持つドラッグの俗語)という単語が使われていたことにすこしだけ驚いた。そして、彼女のまとめた感想が、独特な言葉で的確かつ簡潔に形容されていたことと、その作業を、たやすく可能にした彼女の持っている能力にも感心した。

このときに、自分が香子に対して抱き始めていた興味が、どんどんと、膨らんでいくのを感じていた。

「直感的な感想だね。性格が出てるのかもね。しかし、香子ちゃんの感性はいいセンスしてるよね。俺の友達にもさ、全体的な面でとか、ある1点だけっつう特別な奴もいるけど、とにかくハイレベルな感性を持ってる僕の知り合いのなかでも、トップレベルだよ香子ちゃんの感覚はホントに。いままとめた君の感想は、この店に散らばってる色から強く感じ取ったイメージでしょ」

翔一は、香子の感じたイメージが、何から生み出されたのかを、こんどは自分が、簡単にまとめてみた。香子は、驚いた表情を隠さずその、可愛らしい顔に浮かべて

「当たり、翔ちゃんの言う通り。私がお店に入ったとき1番インパクトを感じたのが色、色の洪水。ちょっと胸がドキドキしてたわよホント、中に入ってすぐ」

彼女の話を聞きながら、翔一は、香子を見つめている自分の表情に、超、嬉しい事に出合った時にしか絶対に出てこない特別な表情が、広がっていくのを感じていた。楽しい、さらに嬉しい。滅多に経験できない程の興奮を感じていた。

例えば、考古学者が古代の遺跡を探して何年も地面を掘り続けてやっと見つけた宝の山、それを1人でながめているそのときの気持ち、その表情。そんな感じ。

『いるんだなぁ世の中には、こんなに可愛いのに持っている能力も凄いし、その上、魅力的な女性が』

そんな女性が今、俺の目の前にいる。

「俺は、初めて逢ったよ香子みたいな素敵な人に」彼は言った。

※本記事は、2017年9月刊行の書籍『DJ』(幻冬舎ルネッサンス新社)より一部を抜粋し、再編集したものです。