セットリストNo.1(第一章)

9 I Need You–Maurics White

2人は、翔一のお店のMy Pointsに戻ってくるまで、歩き始めたときと、同じポジションで歩き続けた。彼は、お店の前に止めてあるフィアットX1/9のドアロックをキーオフしてドアを開け、助手席に香子を乗せた。そして、運転席側のドアから、自分の体をシートに滑らせた。

「狭くないですか?」

翔一は彼女を気遣う。

「充分余裕があるわ。でも、この車って日本の車じゃないみたいだけど、すごくスタイルが素敵ね。私、気に入っちゃった」と香子は言った。
「それはすごーく嬉しいね。こいつはフィアットX1/9つってね。イタリアで生まれた車だよ。俺もこの車が大好きなんだ」

翔一は、そう言いながらキーをイグニションに差し込み、静かにひねってエンジンをかけた。My Pointsのお隣さんには、ディメンションという名のバーがある。そこは日本に長く住んでいる外国人達や、噂を聞きつけた外国人観光客がたまりに来ることで有名なバー。

店は、オープンエントランスだからお店の外にも、けっこう酔っ払い外国人が、コロナビールを胸に抱えながら、あちこちのビルの階段で座り込んでウトウトしていたりする。そんなロケーション。

翔一は、フィアットが通るスペースを少しだけ開けてほしくて。窓を開け、DJらしくよく通る声で、「EVERYBODY PLEASE OPEN MY WAY!」と叫んだ。彼の声に、気づいてくれた愛すべき酔っ払い達は、「OH!  NICE CAR」とか言って、彼のフィアットをついでに褒めながら、路を開けてくれる。

「THANK YOU VERY MUCH!」

そう言い残して、六本木通りに車を向けて走りだした。この道路は、あいかわらず渋滞中。混んでいない時間のほうが珍しい。

この街の主要な交通機関である日比谷線、その最終電車を見送ると道路渋滞のピークタイムが始まる。電車で帰る。という手段を逃した。ちょびっと鈍くさい奴らが駅の周りで路頭に迷いはじめる。

そんな、おいしいお客をねらって、グリーンキャブ・ドライバー達が、あっちこっちのテリトリーから、この街に集まってくる。渋滞の原因は、ほとんどがそれ。

それ以外にも、けっこう遠いところから、わざわざこの街までやってくる若い鈍くさい奴ら。ここらの道をよく知りもしないから当然、いろんなところで行き止まりに阻まれて右往左往。