おそらく
雑多に生い茂った雑木林に空を覆われた行程の中で
その山頂の周辺だけ木立が疎(まば)らであったこと
そしてもうひとつ
一本一本が二十メートルは優に超えそうな高さに
真っすぐに伸び揃った赤松であり
それぞれが申し合わせたように
上空の一部にのみ枝葉を広げた
巨大な彼岸花のような姿が
異様に目をひいたせいかもしれない

散策中
その松木立の下に辿り着くと
その遥か上空に伸びた梢の世界に
視界を広げてぼんやりした

その梢の世界には
山頂のせいか
なぜかいつも静かな松風のようなものが吹いていた
赤松はそれぞれに大人の胴体ほどの幹を持ちながら
先端の方は支点から遥か遠いところにあるもの独特の
ゆったりとした様子で静かに風に揺れていた

その足元に立つ時
自分はよく一度両目を瞑(つぶ)り
大きな深呼吸を二、三度繰り返してから
ゆっくりと目を開いた
そうして
そこにその松木立の先端と青空の織り成す空間が拡がっているとき
「心地よさ」という水滴で出来たシャワーに当たっているように
次から次へと幸せな気持ちになった

そして
自分が
その繊細な梢を擦り抜ける風になったかのように
太陽を一身に浴びて
明るい空に一番近い葉の細やかな絨毯をなだらかに擦り抜け
その新鮮な感触と暖かな陽の光を確かに感じられるような気がして
惚けかけたじいちゃんのように
いつまでもいつまでもそこにいることが出来た……