二つの見方

廃屋の裏手の大きな杉の木の下を歩いていて
不思議なことに気づいた
目が痒くなるとかその種の気づきではない
その種の症状のせいで近年つらい立場に
追い込まれまくっている樹木ではあるが
時間があるのをいいことに
じっくり見てみると
こちらの立ち位置や視点によって
このくらい印象の変わる木も珍しい

少し離れた位置で見ると
それは閉じた傘のように鋭利な三角形である
通常 人が杉の木でイメージするのはこの形だろう

だが 単独で立っている大きな杉の木を
真下から見上げた時の視界は
そうした一般的なイメージとはまるで違う
もともと裾にいくほど広い枝葉の拡がりは
幹の脇で見上げる人の視界を完全に覆いつくす
つまり視界が杉の枝葉の中にすっぽり入るので
その枝葉の世界の拡がりや全体像は見えない
見えるのは深緑の繊細な枝葉が
幾層にどこまでも重なっている「奥行き」のみである
この樹木の下に生まれ この樹木の下に生きる虫は
晴天の日にも仄暗いこの枝々の拡がりを
「世界」だと思い死んでいくだろう