「それで、奥宮さんがどうしたんだ?」と、柚木が聞いた。
「あぁ。ハッキリ言う。俺は彼女の事が好きだ。交際をしたいと思っている」

天地は正直に言った。柚木は驚くと同時に、胸に何かチクッと刺さるような思いがした。

「お前から頼まれた事は解決した。だが、彼女がどんな病気か、俺は知らないし、精神的な病気はきっとデリケートなんだろうと思うから、主治医のお前に、どう告白したらいいのか、気をつける事があれば教えてもらいたい。

俺にとって、これまでの女性とは全然ちがうんだ。名前も字が同じだし、運命を感じている。真剣な気持ちだ。医者の守秘義務があるのは承知している。お前が許せると思う範囲でいいから、彼女の事を教えてくれ。頼む」と、天地は頭をさげた。

柚木は胸が疼くのを感じた。だが、自分は医者であり、患者である優子に、口を出せない立場にあるのもわかっていた。

「彼女は過換気症候群といって、精神不安や強いストレスで過呼吸の発作が起きる病気だ。それと、不眠症もある。非常に仲のいい両親の元で、大事に育てられた典型的なお嬢さんだが、父親が自殺して、母親とは葛藤が生じていて、今とても不安定な精神状態だ。

内向的で、ずっと異性関係がなかったが、去年から四ヶ月だけ、大学の数学科の助手の男と付き合っていた。ただ、手もつながない関係のまま、繊細な彼女は悩みぬいた末、つい最近別れた。その男が、彼女にストーカー行為をしたので、男性不信状態にあると思われる。告白を受け入れるか難しいかもしれない。華道を本当に生きがいに思っている一途な女性だ。以上だ」

柚木は、冷静に客観的に、優子の事を話した。

「ありがとう」と、天地は礼を言い、柚木に頭をさげた。

「お前を信用しているが、これだけは言っておく。彼女は本当に純粋な女性だ。今の時代に珍しい、清らかな精神を持った人だ。傷つけるような事は絶対にしないと約束してくれ。主治医として、彼女が快復して幸せになる事を願っている」

柚木は言いながら、主治医として、と言った自分の気持ちに、わざとらしさがあったと思った。

「あぁ。約束する。必ず、彼女を幸せにする」と、天地は、柚木をしっかりと見て言った。

「お前に彼女を紹介したのは、僕だからな。責任を感じるんだ」と、柚木は言った。言ってから、そうだ、自分が引き合わせたのだと、心の奥が苦しくなった。だが、天地は本当にいい奴だ。天地なら、任せてもいいと、自分に言いきかせた。

「おかげで俺は、運命の女性に出逢えたよ。ありがとう。今夜は飲もう!」と、天地が言った。

「あぁ」と、柚木は苦笑した。

※本記事は、2020年4月刊行の書籍『追憶の光』(幻冬舎ルネッサンス新社)より一部を抜粋し、再編集したものです。