一体化

自然と一体化するためには
揺るぎない宇宙のような「主観」が必要だ
太古の人々の多くが
当たり前のように持っていた「主観」が

人里離れた寒村に生まれ育った自分は
かつて空気のようにそれを持っていた
野山や樹木や浮雲に
人知れず一体化することができた

人知れず?
いや 周りの人々が知らないばかりか
誰よりも自分自身がその幸福に気づいていなかった

だが
学校を出て社会の一員となった自分は
空の色よりも周りの顔色ばかりを気にして生きているうちに
いつのまにか かつての「主観」を見事に失ってしまった
起きたあと意識の裏側に隠れ
どうしても思い返せない目覚め際の夢のように

だから
自分は寒村に戻った
ほとんど人のいなくなった僻地の寒村に
忘れていたことさえ忘れていた「主観」を取り戻すために

そして……それから数か月余りの日々は
私の人生の中でも殊に幸せな時
いや 恐らくは世の多くの人々の数か月と比べても
これ以上はないであろう至福の日々になった

何冊かの古書を除いて
何等の娯楽も パソコンも テレビも
スマホすらない生活だったにもかかわらず