星空

田んぼのあぜの叢(くさむら)に寝転び
深夜の空に視界を広げる

夜空の色を一言で表現するのは難しい
おそらくそれは
千差万別な昼間の空から
限りなく光を落としたものだから

影絵のように真っ暗な北側の山々
その上方のはるか見上げるような高処(たかみ)に
おおぐま座のひしゃくが
そびえたつように浮かんでいる
最初それは
精巧な合成写真のようにも見えた

人が視界に映る対象の大きさを感じ取るためには
まがりなりにも
その対象と自分との間の距離感が不可欠なわけだが
その星空と自分との間には
冗談のように
何等の距離感も感じられなかった

それは
少し大きめのプラネタリウムのようにも
気の遠くなるほど離れた
果てしない宙空のようにも見えた
人工的なプラネタリウムの閉ざされた空間と
現実の宇宙空間の間には
何億光年以上の果てしないギャップがある
おそらくその巨大なギャップにこそ
「何か」が隠されている気がした

だが
いつのまにか薄菫(うすすみれ)色になった
周辺の山影と対比したり
やたらと目を細めて凝視してみたり
阿呆のように小一時間ほど眺めていても
その「何か」は容易には分かりかねるようだった

一瞬 視界の端に流星の尾のようなものが見えた
身体に触れられて初めて身体の存在を思い出すように
宙空のスクラッチは なぜか
少し前まで自分の周りにあった賑やかな生活の残り香のようなものを
一瞬 思い出させた
だが 同じ辺りをその後何度見返してみても
そこにはただ漆黒の闇が拡がっているばかりだった

じっと集中しようとして
目を細めたり見開いたりしながら
呼吸を整えて「何か」をずっと待っている
自分の顔の内側のこわばった感覚のみが
乾いた味気なさを残した

※本記事は、2020年8月刊行の書籍『静寂の梢』(幻冬舎ルネッサンス新社)より一部を抜粋し、再編集したものです。