第1部 捕獲具開発

3章 仕掛けとその効果

4 餌付け機能を備えた1匹取りの仕掛け

B 捕獲例2 クマネズミの場合

実施例2 グループホームの場合(集団脱走)

観察記録

そして最後に、最も苦労したであろう右下の個体について推理した。線材に引っかけてぶら下げてあった金属板が大いに脱出の妨げになったようだ。6㎝の穴を潜り抜けないと入口の下端を押すことができないが、3㎝ほどの隙間では無理だったのだろう、口元から血を流しながら何度も6㎝の丸い穴から出ようとしていたことが写真から見て取れる。

人の場合でもそうだが、まず入った所から出ようとする。通常ならここまでして出られないとすると別の方法を探すのだが、こだわり続けたのだろう。帯状の装着部分を曲げて変形させてしまったために、踏み板の上の左右の隙間から出ることがさらに困難になった。踏み板を押し上げ、最も大きな力が必要な中央部分から出たのだろう。不必要と思われるほど踏み板を持ち上げている(写真1)。

[写真1]外側の所々に血が付着している

中にいた個体が強くて大きい個体であることを連想させるし、体が大きいために一層出にくかったことを連想させる。救出活動は困難を極めたであろう。中と外の2個体が共に口元を血まみれにさせながら他の出口を探したであろうことが捕獲具内外のいろんなところに付いた血痕から伺い知ることができた。

そして、入口のバネを30度ほど押し上げて初めて外から触れられる場所に付いていた血痕は、中の個体が出ようとしてバネを30度ほど押し上げていた時、そばから離れられないでいる外の個体が血の付いた鼻を押し当てた結果だ。もう少しで出られるはずなのに外から押し返して邪魔をする奴がいる。この意味のない、出ようとしてもがいている仲間の行動を単に邪魔をするだけの行為も、もし、傍で観察することができたとしたら、思わずがんばれと言いたくなるほど感動的な行為だ。

捕獲具内外に付いた血痕の多さから、救出するのに最も多く時間がかかったと思われた。おそらく、最もひどい音がした深夜1時 頃の20~30分間がこの時間帯だったと思われる。これでは、下にいる人たちが安眠できる訳がない。

前にも「うわ! でかい!」と驚くような個体を捕獲したことがあるが、厚さ0.5㎜の金属を曲げて押し上げることができる最後まで残った大物はこの家族の父親だったのだろうか? もし、そうだとすると、父親が捕まっているのを、時間をかけて救出しようとする家族が外に複数匹いたことになる。