第1部 捕獲具開発

3章 仕掛けとその効果

先に述べたように、仕掛けが作動する時に大きな音がするようではたとえ運よく1匹捕獲できたとしても、その後同じ場所でその仕掛けを使うことができない。だから仕掛けの構造を考える上で最も優先すべき課題は、仕掛けが作動する時に音がしないことであった。

いつどのようにして捕まったのか、捕まったネズミが不思議に思うような、音のしない仕掛けを作ろうと思った。

そうしてこれまでにいくつもの音のしない仕掛けを考案して作り、テストの目的で実際に使ってきた訳だが、それらの仕掛けのうち、これから仕掛け作りを始めようとする人たち、あるいは、生き物を研究する人たちにとって特に興味深いと思われる仕掛けを選んで、面白い観察結果と絡めて詳しく説明する。

1 ネズミに靴を履かせる作戦

これは、現場でネズミと格闘中に思いついたアイデアである。もちろん沢山のネズミを何とかしたいと思って考えている最中に閃いた。

クマネズミの足には人間の手にある指紋のようなヒダヒダがあり、何かをつかんで登る時に有効である。暗視カメラにはその様子が写っていて、ステンレス製の調理台の足を登る際に、ステンレスの板をつかんで一旦停止し、周りの様子をうかがっていた。一気に駆け上ると思っていたので、これも驚きであった。

この仕掛けは、そのヒダヒダのついた便利な足に靴を履かせて登れなくしたら面白いだろうという思いつきだけで作ってみた。

金属の靴を履かせることができたら、天井に穴をあけて餌場に降りてきた場合、巣に戻れなくなったネズミのカチャカチャというタップダンスのような足音が厨房に響き渡るかもしれず、想像するだけで面白いことこの上ない。

しかし、そのネズミをどう処理するのかということが問題になる。ネズミは前足を使って餌を確認しながら食事をするそうなので、食事がうまくとれないことと巣に戻れないストレスで死ぬのではないかと想像しつつ、とりあえず作ってみた。

薄い金属の板を曲げて小さな箱にし、足を突っ込んだ場合に足に食い込んで抜けなくなる構造にした。広さが4㎡ほどの飲食店の厨房の土間に並べて設置し、中央に小さく切った食パンを山盛りにして置いた。

私は、捕獲にあたっての餌は食パンと決めている。食パンはネズミの大好物で、出来立てのパンは匂いが強く、厨房に匂いは充満し、その存在はすぐに周囲のネズミに認知されるからだ。

ネズミの生息の有無を確認する手法として食パンを用いるのも、そのためである。

テストの結果は、1つの小さい仕掛けが2mほど離れた場所にころがっていたので、1匹が足を突っ込んだということと、それが抜け落ちたということがわかった。山盛りに置いたパンはそのままである。

その様子を暗視カメラで撮影したのだが、面白い様子が観察された。画面には、数匹のネズミが行き来する様子が写っていたのだが、画面の奥にいる小さい個体は仕掛けに全く近寄ろうとしない。大きい個体が数回様子を窺うように近づいて来るのだが、すぐに画面からいなくなる。

当時は6 時間しか録画できなかったので、設置後6時間を過ぎた早朝に1匹が仕掛けにチャレンジしたことになる。

※本記事は、2020年6月刊行の書籍『捕獲具開発と驚くべきネズミの習性』(幻冬舎ルネッサンス新社)より一部を抜粋し、再編集したものです。