案の定、台風と地震が一辺に来たような怒濤が吹き荒れた。

「親を騙すやなんて――。親に噓をつくやなんて」

いやいや、使ってはいけないはずの関西弁になってるんですけど。

「あんたのこと、何を信じたらええの。いったいあんたは、この家をどうしようって思ってんの」

どうもこうも、家というのは単にご飯を食べて寝るだけの箱やと思ってる。それを家庭と呼べるようにするのは、親の仕事やないんですか。

「とにかく、これ以上勝手なことをするんだったら、もう一歩も家から出さないから。そのつもりでいなさい」

監視監督といっても、殆ど家にいない母親の目がどこまで届くというのか。人間の皮を被った鷹やライオンなら分かるけど。

「別にそこまで私に(こだわ)らんでも、映美がいるやない。やる気満々の映美に跡を継がせたら、それで済むやない。万事安泰。私は私で勝手に」

言い終わらないうちに、母親の掌が頰に飛んできた。さすがに加減したのかそれほど痛みは感じなかったが、咄嗟の行動に一歩引いてしまった。

ああぁ。母親は大袈裟に溜息をつき、頭を抱え込む。何も分かってない。何も分かってない――。ぶつぶつと繰り返される声が、二十畳はあるリビングにこだまする。

「私、本気で継ぐ気なんてないから。経営もアレンジメントも全く向いてないの、あんたがいちばんよう知ってるやない」

あんたって――。絶句した母親を置き去りにして、自室に駆け込んだ。