次の日の夜、塾の前で先生が出てくるのを待った。

せんせ。柱の陰から声をかけると、先生はびっくりして借りてきたチワワみたいにあとずさった。

「神崎……さん。ああ、びっくりした。今日、教室に来てたっけ。いや、来てなかったよな」

先生はきょとんとした顔で、なんでここに、と聞く。

「夕べ、学校が終わったらうちの食堂においで、って先生が言うたから」

そこまで明確な理由があったわけではないが、夜遊び仲間と(つる)むのもだるくて行き先を考えてるうちにふと思い付いただけだ。

「ごめん。昨日、言い忘れてたけど、今日は定休日なんや。せっかく来てくれたのに申しわけない」

「ええ~。申しわけないでは済まへんわ。わざわざ来たのに」

困ってる先生の顔を見ていると、意地悪な気持ちが湧いてきた。

「なあ先生、どっかへ連れていってよ。お腹も空いてるし、待ちくたびれて足もしんどいし」

それは、ちょっと。ますます困り果てる先生に無理難題を押し付けたくなる。

「私、あの鬼母に家を出されてん。もう帰ってこんでええって言われた。だから、行くとこないねん」

「それは噓をついたんやから、しょうがないかもしれへんな。でも、行くとこないのはキツイなあ」

でしょ、でしょ。先生の袖を引いて、大通りに向かって歩いた。

「カラオケ? それとも居酒屋へ行く?」

「どっちも無理やな。未成年を飲みに連れてはいかれへん。せや。ええとこがあるわ。うん、そこへ行こ」

「まさか……。やないよな。援交で捕まるって。あっ、私もう十九歳になってるから、大丈夫……、かな」

「まあまあ、着いてきたら分かるから」