先生のあとに着いてバスに乗り、六つ目の停留所で降りた。

そこは、ぽつぽつと民家があるだけの寂しいところだった。ちょっと先にコンビニが見えた。お握りとお茶を買って、店先に座って食べる。先生は梅干し、私はツナマヨ。

少し歩くと街灯も疎らになって、辺りはどんどん暗くなっていく。薄暗がりの中、道端で淡いピンクのコスモスが頼りなさげに揺れていた。

どこ行くの。不安が膨らむ。先生の手首を摑んだ。女子校育ちの私は、男子に全く免疫がない。初めて触れた異性の肌はひんやりと冷たく、慌てて手を離した。

「ほら、もう見えてきたで」

先生が指さした方向を見ると、昭和のもっと前からやっているような雑貨屋があった。ぼんやりとした明かりが、店先にぶら下げた広くて浅いバケツのような金物を照らしている。

「あの荒物屋の二階が、これから行くとこやから。もう八時を過ぎてるからな。まだみんな居てるかな」

アラモノヤ? なんじゃ、それ。

先生は上に向かって、こんばんわ、と声をかけごちゃごちゃと品物が積まれた店の中を通り抜け、奥の階段を上がっていく。店内を見渡していた私は、慌てて先生のあとを追いかけた。

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※本記事は、2021年11月刊行の書籍『渦の外』(幻冬舎メディアコンサルティング)より一部を抜粋し、再編集したものです。