チャーターリングモデル

その背後にあるのは、2つのモデルにおける学部規模の捉え方の違いにある。

カレッジ・インパクトモデルは学部規模が大きくなるほど個々の学生が集団の中に埋没し、教員や他の学生との交流が希薄化することでキャンパス内での居場所を失い、結果的に退学行動につながるというものである。

一方、チャーターリングモデルは、学部規模の大きさが多様な学生を包摂するカリキュラムシステムと、きめ細やかなティーチングシステムを有していると見ている。その中で、学生はさまざまな経験を経て自らの将来像を具体的に描けるようになり、結果的に退学防止につながるとしている。

海外留学やインターンシップなどの学外研修、さまざまな資格講座に代表される正課外授業、そして、前述(関連記事:『「大学内に居場所を見出せない」…退学者を食い止めるためには』)の学生の居場所を確保するようなさまざまな仕掛けなど、こうした対策が数多くの大学で行われているのはチャーターリングモデル的大学観を前提にしているからかもしれない。

一方、近年では、教学IR活動で集められたデータを使って除退する学生のタイプを発見しようとする研究が盛んに行われており、どちらかと言えば教育達成モデルに近い方向である。その1つとして近藤伸彦および畠中利治の研究を紹介する(注1)。

彼らはある大学の2009~13年度に入学した新入生の学修データとさまざまな機械学習モデルを使って、除退の出現確率がどの程度の精度で予測できるかを検証している。使用データは調査期間中に入学した学生の性別、学部、入試種別、入学前課題提出頻度、新入生オリエンテーション出席頻度、1年生春学期必修科目の出席率、1年生春学期GPA、3年生4月時点の在籍状況である。

そして、比較に用いた学習モデルはロジスティック回帰、多層パーセプトロン(MLP。ニューラルネットワークの1つ)、RBFネットワーク(ニューラルネットワークの1つ。MLPに比べて安定した学習ができると言われる)、J48(決定木モデルの1つ)、サポートベクターマシン(SVM。教師あり学習モデルの1つ)、AdaBoost(アンサンブル学習手法の1つ)である。

この研究で得られた重要な結果は、1年生春学期の最初の5週間の学修状況が把握できれば約40%、1年生春学期末時点での学修状況が把握できれば50~60%の確率で、3年生4月時点の学生の在籍状況が予測できるとしている。

(注1)近藤伸彦・畠中利治「学士課程における大規模データに基づく学修状態のモデル化」『教育システム情報学会誌』第33巻第2号、2016 年、pp.94-103。