箱根の宿 二日目午前

二日目も朝から雨だった。私たちは朝食後も、どこにも出かける気分にはならず、十一時のチェックアウトまで、宿に留まることにした。仲居さんが部屋にサービスのホットコーヒーのポットを持ってきてくれた。

静かなくつろぎが始まって間もなく、浴衣から、グレイの長そでシャツの上に紺色のデニムのオーバーオールに着がえた、中澤のだみ声が響いた。

「松岡、また俳句の話なんだけど。俳句をやる上で難しい点は何だ。君が俳句のリアルと言ったように、俳句初心者がなかなか良い句が詠めないのは、何か難しい点があるからじゃないのか」

二日酔いのくせして、朝から面倒くさいことを聞くものだ。適当にやり過ごそうと思ったが、他の二人も昨夜の話で、少なからず俳句に興味を持ったみたいで、聞き耳を立てている。

私は俳句を気軽に始めて、俳句の難しさに気づいた初心者だ。ここで、難しさを述べると、せっかく俳句にやる気を出している三人の気持ちを()えさせることになるかも知れない。だが、俳句のリアルを語ってくれと頼んだのは三人だ。俳句の難しさを嫌ってそのために、俳句を始めなければ、それはそれでそれまでだったということだろう。

私は俳句を始めてからすぐに、俳句の難しさに直面した。それは、私の能力の問題というより、俳句の特性に因るものである。