血管性認知症の予防と治療

脳血管障害後に起こる認知症であるため、その予防として脳血管障害を起こさないようにすることが最も大切です。脳血管障害を起こす人は危険因子と呼ばれる状態が通常みられます。危険因子を除き認知症を予防することが主な方法で、認知症になってからの治療薬はわが国では承認されていません。

高血圧症の治療

最も重大な危険因子は高血圧で、血圧を調節することがとりもなおさず、血管性認知症を予防する最善の方策です。高血圧の治療のため、食事の塩分を減らすことが勧められます。最近、薄味の料理が日本でも主流になっています。そのため、高血圧の人が減り、脳出血が少なくなりました。ただし、現代の日本でも平均的塩分摂取量は10gを超えています。塩分摂取目標は男性7g、女性6gですので、もう少し塩分を控えることも必要です。

高血圧により脳に血液を送る頚動脈、椎骨脳底動脈や大動脈あるいは細い動脈にも動脈硬化が起こり、動脈硬化を基にして、脳血栓や心臓の血栓が脳の血管を閉塞して脳塞栓を起こすことがあります。そして、脳血栓や脳塞栓をきっかけに血管性認知症になります。したがって、高血圧を若い頃から予防するかがキーポイントです。

最近、塩辛いものに代わって、甘いものを食べる若い人が増えてきました。また、車社会では身体を動かす時間が減り、糖の燃焼が体内で低下し、インスリンの分泌に負担がかかり、脂肪の合成が促進され、糖尿病や脂質異常症が増えています。

その結果、高血圧の場合と同様に、脳に血液を送る動脈に動脈硬化が起こり、脳梗塞や脳出血を介して血管性認知症が発症します。したがって、高血圧だけでなく糖尿病を若い頃からいかに防ぐようにするかもまた、重要なポイントとなります。

血圧を下げる降圧薬が数多く開発され、日本でも広く使われています。塩分を尿に出す利尿薬、細い血管を収縮させて血圧を上げるカルシウムの働きを抑えるカルシウム拮抗薬、腎臓から放出されて血圧を上げるアンギオテンシンというタンパクの働きを抑える薬、副腎から放出されて血圧を上げるアドレナリンの働きを抑える薬など百花繚乱です。降圧薬を上手く使うと血圧を下げるだけでなく、認知症になる人も減ります。

血圧を下げる治療は血管性認知症の予防になりますから、40~50歳の中年期から始めて下さい。どの種の降圧薬が最も有効かについては、まだ十分なデータはありませんが、いずれの降圧薬を使ってもよいですから高血圧を正常血圧まで下げることが必要です。

さらに、高血圧の人は血管性認知症だけでなく、アルツハイマー病にもなりやすいので、高血圧があると分かったら、すぐに治療することは認知症予防の上で非常に重要です。血圧を正常化して、認知症になることを避ける努力をしたいものです。