糖尿病・脂質異常症などの治療

糖尿病のある人ほど脳梗塞を起こしやすく、血管性認知症にもなりやすいことが知られています。さらに、糖尿病はアルツハイマー病の危険因子です。糖尿病の人は動脈硬化が進み、脳の中・小の動脈が詰まって血管性認知症になりやすいようです。しかし、糖尿病の人がなぜアルツハイマー病に罹患しやすいのかはまだ十分には分かっていません。

糖尿病の治療はまず、食事と運動を上手くコントロールすることです。とくに、若い頃からの生活習慣が大切です。前にも述べたとおり、甘いものを食べる若い人が近年増え、車社会で身体を動かす時間が少なくなったため、体内でブドウ糖が利用されなくなり、インスリンの分泌に負担がかかります。甘いものを多く食べすぎず、体を動かすことが大事です。

多くの糖尿病治療薬も医療上、使われています。低下したインスリンの分泌を促進する薬、インスリン自体を補う治療、インスリンの効果を高める薬、ブドウ糖の腸からの取り込みを抑える薬、ブドウ糖を腎から排出させる薬などです。

食事量、活動量、体調を考慮して、中年期から血液中のブドウ糖濃度や赤血球のヘモグロビンに結合したブドウ糖の割合(HbA1c)を測定して薬の量を決めます。認知症の人は食事量や活動量など不確定な要因が多いので、HbA1c7.5%程度を目標にしてコントロールすればよいでしょう。

認知症の人の糖尿病を治療する場合、食事量が一定しないため低血糖発作に注意すべきです。低血糖により脳のブドウ糖が減ると、意識が障害され周囲の状況が分からなくなるとか、発汗が高まるなどの症状が出ます。低血糖が続くと、海馬などが障害されて、認知障害がさらに強くなるので是非避けたいものです。

甘いものなどを食べすぎると、脂肪の合成が促進され、中性脂肪やコレステロールが増えます(脂質異常症)。コレステロールや中性脂肪は太い血管の動脈壁に溜まって動脈硬化を起こします。動脈硬化が進むと脳血栓を起こして、血管性認知症に進むことがあります。

脂質異常症を防ぐには、若い頃からの食事や運動への気配りが欠かせません。とくに、肥満はアルツハイマー病などの認知症を起こしやすいようです。食事が豊かで車社会という現在のわが国の生活習慣は認知症を防ぐには好ましくないことを熟知しておく必要があるでしょう。

高コレステロール血症の治療薬スタチンは、ブドウ糖からコレステロールをつくる過程を阻害して、血液のコレステロールを減らします。効き目は良いのですが、まれに筋肉を損傷する副作用があり、下肢が痛むので注意が必要です。

脳血管障害を起こさせるようなその他の誘因が血管性認知症を増悪させるため、それらの因子を取り除くことが大切です。悪化させるものとして、喫煙、肥満、運動不足などの生活習慣、膠原病、痛風などの病気があるので、生活習慣を改善して、病気を治療することが勧められます。

※本記事は、2021年4月刊行の書籍『認知症の人が見る景色 正しい理解と寄り添う介護のために』(幻冬舎メディアコンサルティング)より一部を抜粋し、再編集したものです。