薬以外の治療法(ケア・リハビリテーション)

感情・感覚を介する治療法

回想法がよく行われています。通常、数人が集まって昔の思い出を話し合って、感情を高める試みです。アルツハイマー病などは新しい記憶より古い記憶の方が比較的保たれるので、古い歌、古い写真や古い道具などを上手に使うこともお勧めです。現在もよく行われています。記憶力の回復には大きな効果はありませんが、認知症の人の感情が穏やかになり、介護拒否、興奮、暴力などを減らせるようです。同窓会なども一種の回想法です。

回想法以外に、バリデーション(確認療法)という感情に訴える治療法があります。認知症の人にコミュニケーションにより現実を受け入れてもらい、他人の経験を肯定的に受け止めさせます。それにより、本人の自尊心を保ち、外界からの逃避を減らせます。また、他人との接触を促進し、本人の潜在能力を刺激して問題解決を容易にします。その結果、独力で生活できる可能性もあります。

しかし、その根拠は乏しいのですが、この療法を受けた人はイキイキと幸せそうになり、行動異常などが減ることもあります。

感情を介する擬似刺激直面療法も利用されています。親しい人の声や昔の音や音楽の録音、古い風景などの録画を再生すると、興奮した認知症の人がおとなしくなったという報告があります。方法を一定にして、多人数での有効性を証明することが望まれます。

認識を介する治療法

認知症の人に情報を認識させ、認知障害や異常行動を改善する試みです。欧米では現実を把握させるリアリティーオリエンテーション(RO)が行われています。

ROは脳に外傷を受けた兵士のリハビリテーションから始まりました。時間・場所・対人関係などを認識させて、見当識を改善させます。フォルソム博士がこの方法を認知症の人にも応用し、効果を認めました。認知症の人のおかれた状況を、本人に把握、理解させることにより、自己を規制して、自尊心を回復させます。この治療法の有効性を検討した試験が6施設より報告されています。それらの結果は公平な多くの報告を基にしたメタ解析でも効果が証明されました。

125例の認知症の人にROをしますと、認知機能も行動機能も有意に改善しました。デイサービスなどを利用する認知症の人に行われ、言語機能などが一時的に改善したとか、1年半で44%に有効であったと報告されています。

しかし、ROによりかえって怒り、欲求不満、抑うつが増したとの報告もあり注意が必要です。ケアにより認知症の人の症状が悪化した報告はほとんどありませんが、ROは例外的に副作用があります。そのため、ドイツや日本ではあまり行われていません。むしろ、認知症の人の間違った認識をそのまま受け入れるのが主流です。

技術訓練はリハビリテーションの一環として行われます。しかし、その効果は最近検討されて、有効なものもあるようです。また、認知症の人の職業継続も職種により有効なものもあります。