出逢い。情けは人のためならず


失声症の私は、沈黙の毎日を、ただ、大好きな花を見て過ごしました。

そのうち、枯れて別れるのが淋しく思われ、花を絵に描くようになりました。そんな私に、ベッドが隣りだった六十代の女性Mさんは、話しかけてこられました。Mさんは、肝臓ガン末期の患者でした。一人暮らしで、長らくうつ病も患っておられました。私達は、よく、花壇のある屋上へ散歩しました。声の出ない私は、もっぱら、聞き役でした。

「私……淋しくって。自殺しようと思って、もう、死に場所も決めてたの。それが、ガンで死ぬの。可笑しいでしょ?」と、自嘲するように言って、空を見あげたMさんの瞳から、涙がこぼれ落ちました。その時、私は(この人を、こんな孤独なまま死なせてはいけない!)と思いました。

私は地下の売店へ行って、折紙を買い、毎日毎日、鶴を折りました。千羽になって、糸に通し、Mさんのベッドの天井に吊るしました。Mさんは、私に抱きついて喜んでくれました。

Mさんは、私の体調の事を色々と聞き、私は紙に書いて説明しました。体中が痛くて辛く、睡眠薬がないと眠れない事や、血圧が上は五〇ほどで、下は三〇ほどで、いつもだるくて動けない事や、口内炎がいっぱいできて、痛くて食べるのも辛い事や、治療法が無いと言われ、ショックで声が出なくなった事などを。Mさんは、それらを知って、私にハッキリと言いました。

「あなたもガンよ! ちゃんと調べなさい!」

私は(えっ!? ……まさか……)と思いました。でも、Mさんは、それから毎日、私の顔を見る度に「きっとガンよ!」と言い切りました。お医者さんからは、ガン検診は何も言われていませんでした。全身の痛みについては、整形外科へ回してもらった結果、酷い頚椎症と腰椎すべり症のある事が判明し、リハビリを受けました。

三ヶ月たち、少し声が出るようになり、私は退院しました。